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この点、電子式船荷証券だとどうなる(べき)かという点も、3.2と同様、理論的には答は簡単です。電子式船荷証券の法的枠組を定める契約次第です。そこで、例えば、その契約中に、電子式船荷証券の「所持人」は、これこれの条件下で当該電子式船荷証券上の義務を負うといった具体的規定をおくこともあり得ます。しかし、このような具体的規定をおけば、本来統一されていないものをはっきりさせすぎという点で、それは電子式船荷証券の本来的目的(紙の船荷証券の代替)を超えるものであるという批判があり得るでしょう。むしろ正しいのは、3.2と同様、当該電子式船荷証券の「所持人」は紙の船荷証券における所持人と同様の条件下で当該電子式船荷証券上の義務をも負担する旨規定するだけに留める方法かも知れません。勿論、こう規定すると、逆に当該電子式船荷証券の所持人が義務を負う時点がはっきりしない可能性が出てきますが。

 

この点について、Bolero Rulebookには、極めて具体的な規定があります。すなわち、BoleroのHolder-to-order(=紙の船荷証券の記名式裏書譲渡を受けた所持人に相当)及びConsignee Holder(=紙の船荷証券がいわゆるstraight B/Lである場合の荷受人に相当)は、その指名を受諾した段階(=紙の船荷証券を現に受領・所持した段階に相当)から、運送契約上の義務を負担する旨が明記されています(3.5.1.(2))。この義務を負担したくなければ、そもそも指名を拒絶する(=紙の船荷証券を突っ返すことに相当)か、Pledgee Holder(=紙の船荷証券を担保として預かっている状態に相当)ないしBearer Holder(=紙の船荷証券の白地式裏書を受けて裏書に全く名前の出ない形の所持人に相当・但し船荷証券上の権利を行使するには一旦自分をHolder-to-orderに変える要あり)という方式の「所持人」になる(その方式で指名してもらう)ことが必要です。これはこれで、非常に明確です。

 

ただ、既に述べたとおり、紙の船荷証券の場合は本来曖昧ですので、明確ということで、逆に紙の船荷証券とずれがあります。ただ、実際上は、運送人には、誰が現在のBolero B/Lの「所持人」であるかは原則的にはわからず41、わからない人に対して権利があると言っても始まらず、他方、それがわかる場合は、原則的には、英国のCarriage of Goods by Sea Act 1992において船荷証券所持人が義務をも負担する場合として説明した、1]貨物の引渡を受けた場合、2]貨物の引渡を要求した場合、3]貨物につき運送人に対し運送契約上に基づく請求をした場合等になるでしょうから、この英国のActを前提とする限りにおいては、結局さほどの差異は生じない可能性もあります。

 

41 Bolero Rulebookでは、電子式船荷証券の「所持人」は、他の者へ権利を譲渡する場合には、その点をBolero International Ltd.の運営するCore Messaging Platform宛に電子メッセージで通知し、同Platformは、その通知に則って現在有効な電子式船荷証券の内容を記録しているTitle Registryの記録を変更したうえ、新「所持人」にさらに電子メッセージで通知するという形態を採用しています。従って、Bolero International Ltd.(の維持管理するTitle Registry)が、権利移転の経緯をすべて把握している主体であり、個々の運送人が把握可能か否かは、運送人がBolero International Ltd.(の維持管理するTitle Registry)から情報を引き出せるか否かによることになります。この点、Rulebookには実は何とも明記してありませんが、Boler International Ltd.が一昨年秋日本で行った説明会において筆者が質問したところ、引出しはできない(形で運用される)、その理由は、それを認めれば紙の船荷証券を超えることになるから、との由でした。

 

 

 

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