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これらの場合につき、TEDI Interchange Agreement 3.3の英文版・日本語訳版の各註釈は、夫々全然別の説明をしているうえ、何れも不十分です。英文版の註釈では、それは結局証拠の問題であり、たとえ第三者のためにする契約として効力を及ぼすことができなくとも同様の認定がされるであろうから問題ないと述べていますが、これはおそらく、第一の場合中の、電子署名の有効性の承認の点についての答にしかなりません。代わって日本語訳版の註釈では、第二の場合のみを捉え、金融機関は当該物権的権利により運送人に権利行使をすればよいから、やはり第三者のためにする契約に依拠する必要がないと説いていますが、この説明に問題があることは、既に5]荷受人の1]運送人に対する権利行使に関連して述べたとおりです。従って、やや本筋から外れた局面とは言いながらも、第三者のためにする契約法理の援用は、やはり必要になると考えます。

では、第三者のためにする契約法理に依拠すれば、TEDIのような連鎖的契約の方式でも問題なく関係者全員に同一の契約的規律を及ぼし得るでしょうか。筆者は、これは無理だと考えます。

なぜなら、第一に、既に触れたTEDIの公式の註釈自身が認めるとおり、第三者のためにする契約法理は各国共通に認められる訳ではありません。第二に、この法理がたとえ多くの国で認められるとしても(認めない国を取り敢えず度外視するとしても)第三者に権利を与えるための要件は国によって違います。少なくとも、日本のような受益の意思表示で権利取得という考え方(民法第537条第2項)が一般的とは言い切れません23。そして、契約の第三者に対する効力の問題ですから、必ずしも契約の準拠法24がそのまま準拠法となるとも限らず、準拠法の問題も惹起するのではないでしょうか。第三に、既に言及したとおり、第三者のためにする契約の法理といえども、第三者に義務を負担させることはできないはずですから、筆者が想定している第一の場合で1]運送人と5]荷受人の間に1]運送人と2]荷送人間の契約的規律を及ぼすことを考える場合に、5]荷受人が運送人に対しそれを援用する場合(権利行使する場合)は1]2]の契約による第三者5]の権利取得として考えるわけですが、逆に、1]が5]にそれを援用する場合には、逆に4]5]の契約による第三者1]の権利取得として考える必要があります。

 

23 第三者のためにする契約の、英法・米法・日本法における歴史的発展過程についての最近の詳細な研究として、新堂明子「第三者のためにする契約法理の現代的意義(1)(2)」(法学協会雑誌115巻10号〜11号・1998年)。但し、その第一章では、仏法・独法についても触れられています。

また、この論文の翌年、英国ではContracts (Rights of Third Parties) Act 1999が制定され、原則的否定から肯定への大転換が行われましたが、そのs.6(5)ないし(7)によれば、a contract for the carriage of goods at sea contained in or evidenced by an electronic transaction corresponding to the issue, indorsement, delivery or transfer of a bill of lading (within the meaning of Carriage of Goods by Sea Act 1992)については同法は適用除外とされ、この法理が否定されることがはっきりしています(当該契約における免責約款・責任制限約款の援用は別)。これは、後に本文でもふれるCarriage of Goods by Sea Act 1992が既にlawful holder of bill of ladingが運送契約上の権利を有すると規定(s.2(1))しており、運送契約の当事者でない所持人の権利はそれにより付与すれば足ると考えられたからだと推測されます。なお、同Act s.1(5)にはa telecommunication system or any other information technology for effecting transactions corresponding to the issue, indorsement, delivery or other transfer of a bill of lading等についても同Actを延長適用する政令が出され得る旨の条項がありますが、仮に出されたとしても、TEDIがこれに該当するか(該当しなければ却ってContracts (Rights of Third Parties) Act 1999の上記適用除外にあたらず原則肯定となり、あとは同Actの要件充足の有無の解釈となりますが、受益の意思表示的なものは必ずしも必要ではありません。)、該当するとすればTitle HolderやInterest HolderはCarriage of Goods by Sea Act 1992におけるthe lawful holder of a bill of ladingの要件を充たすか(Possessorでなければむしろ消極に解されそうですが)、といった実に面倒くさい問題点が出てきます。加えて、本文で述べた準拠法の問題があります。

24 TEDI International Agreementの準拠法のことです。その7.7.(f)は括弧付で一応日本法としています。尤も、TEDIは日本発のシステムですからそうしたいのは勿論わかりますが、このような発想で世界的に使用されるようになるかは(例えば日本から外国への輸出取引として輸入国の4]信用状発行銀行と5]荷受人が唯々諾々と日本法準拠を認めるかは)多分に疑問と言わざるを得ませんが。

 

 

 

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