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特に場合により後者が優先し得るとすると、実際は当該実体的権利の立証の有無により結論が左右されることとなり、運送人はその点につき短期間でリスクの伴う判断を余儀なくされてしまいます。(これは裏返せば、当該実体的権利の主張者としてしか引渡を請求できぬ者にもそれを運送人に対し立証すべき負担が生じるということでもありますが。)この点に関しては、少なくとも日本法では、紙の船荷証券の場合、たとえ所有権者であっても船荷証券呈示なしに運送人に引渡を請求できないと解されていること20が想起されるべきでしょう。第三に、より本質的な問題として、そもそも1]5]間の関係は、5]の1]に対する物権的請求権だけでは足りません。5]の1]に対する権利行使は、単なる引渡請求だけでなく、運送人の運送責任を追求する形もあり、その場合は、当然1]2]で締結された運送契約の規律を援用する必要があります。例えば、Hague RulesやHague-Visby Rulesは、規定上は船荷証券の発行された運送契約にのみ適用されますが21、おそらく実務的には、それらに準拠した運送条件でなければならないでしょうから、運送約款の中で、運送条件はそれらによるという規定(船荷証券約款のいわゆるParamount Clauseがそれです)が必要となるはずで、5]荷受人の側が貨物の滅失・損傷について損害賠償請求をする場合(いわゆるカーゴ・クレーム)においては、5]荷受人側からそれを援用することもありえます。また、運送契約上(船荷証券)上の準拠法約款・裁判管轄約款を援用したくなることはあるでしょうし、損害賠償額についての荷主側に有利な合意(従価運賃を支払いかつ船荷証券上(TEDIならShipment Information Table上?)に貨物価額を明示することによりPackage Limitationにかからしめない合意等)を援用する場合もあるでしょう。仮に、これらの場合も、5]荷受人としては、滅失・損傷という所有権侵害に基づく不法行為による損害賠償請求として行けば良いと考えるとしても、その場合は、これらの運送契約の規律を運送人が抗弁として逆に、援用したくなります。

1]5]間において運送契約の規律が必要であるという点は、実は、TEDIの説明の別の個所では認識されています。即ち、TEDI運用ガイドライン3.2.4.(3)2]は次のように述べています。「TEDIにおいては、シップメント・インフォメーション・テーブルを利用した指図による占有移転、attornmentの方法によって、貨物に関する権利が、第三者に対する対抗力を具備する形態で移転し、かつ、attornmentについては、運送会社の承認があるから、運送契約上の地位の移転が明確にならなくとも、貿易金融取引のEDI化は可能であるという考えも、もちろん考えられる。

 

20 戸田修三・中村真澄編「注解国際海上物品運送法」205頁。但し、正確に言えば、これをどこまで貫徹して認めるかは、国によって差異があり得ます。上記文献で引用の判決は戦前のものですし、米国のFederal Bill of Lading Act 1916 (S.10)(1994年以降はThe Law Revision Title 49 Act, 1993により改訂された49 United States Code 80111 (a)(2))によれば、運送人は、運送貨物に対する権利者から引渡中止の要求を受けた後は、たとえ船荷証券所持人に船荷証券と引換に引き渡したとしても免責されずむしろ権利者に損害賠償責任を負うとされており、そこでは権利者に引き渡すべし(その場合船荷証券と引換ということはもとより請求できないはずです)ということが前提となっています。従って、紙の船荷証券でも運送人は場合により上記のような判断を迫られるから同じだ、という反論は確かにあり得ますが。

21 Art.1(b)参照。但しこれに依拠して作られた日本の国際海上物品運送法はそうではありませんが。同法第1条参照。

 

 

 

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