これだけでは趣旨は不明であり、そもそもここにいうattornmentが日本法では何を意味するのかも一義的には明確ではありませんが、TEDI Interchange Agreement日本語訳版の公式の註釈及びTEDI運用ガイドライン3.2.4(3)2]をも参照しますと、おそらく、Possessorの変更(船荷証券の譲渡に相当)があった場合には、新旧Possessor(船荷証券の譲渡人・譲受人)間で(貨物の)指図による占有移転があったと見なすことを、(貨物の直接占有者たる)運送人があらかじめ包括的に承諾することを指す趣旨と解されますので、この説明の言わんとするのは、運送人がTEDI Interchange Agreementの中で既にこの承諾を包括的に付与している16以上、5]荷受人はそれにより貨物に対する物権的権利(典型的には所有権・以下同じ)を取得するのであり、従って当該物権に基づく引渡請求権を有しているから、それに依拠して引渡を請求すれば足るではないかという趣旨と解されます17。
しかし、この考え方には問題があります。第一に、少なくとも日本法の下で考える限り、指図による占有移転(民法第184条)とは、それ自体が物権移転の方法ではなく、あくまで当事者間で物権移転の合意がある場合におけるその対抗要件たる引渡(民法第178条)の一方法に過ぎません。従って、もしPossessor間で物権移転の合意がなく、荷受人が物権を取得していない場合18は、この議論は凡そ前提を欠くからです。第二に、TEDIにせよ何にせよ、電子式船荷証券を使用する場合には、その法的枠組に従った形でのみ運送人に対する権利行使ができるとしないと混乱するように思われ、その枠外の実体的権利の援用により権利行使を認める考え方は、その点妥当ではないと思われます。具体的に言えば、まず、本来TEDIでは、TEDI Interchange Agreement 2.6によれば、Possessor、Title Holder、Interest Holderの三資格を併有して初めて運送人に引渡請求ができるとされるところ、上記の考え方はこれを骨抜きにする面があります。これは、後に述べる、Title Holder又はInterest Holderでしかない金融機関(3]又は4])の権利行使を同様に実体的権利により認めようとするとき、上記Agreement規定との具体的な矛盾として現れます19。また、特に運送人の立場からすれば、一方で電子式船荷証券の法的枠組に従って引渡を求める者がいて、他方で当該貨物の物権という実体的権利を主張する者がいるときには困ってしまいます。
16 TEDI Interchange Agreement 2.5.(b)(iii)によれば、新Possessorの登録により、運送人は当該Possessorにattornする(とみなす)趣旨の規定があります。
17 TEDIとは直接関係ありませんが、この考え方は、江頭憲治郎教授が運送取引のEDI化一般(これは船荷証券の電子化ということと実質的には同義と思われます)につい示された考え方でもあります。江頭憲治郎「商取引における指図による占有移転」(法学協会雑誌117巻2号1頁以下・19〜20頁)但し江頭教授は、この考え方をとる結果として債権譲渡の第三者対抗要件の具備は必要なかろうとされるだけで、債務者対抗要件については触れられていません。債務者対抗要件については、債務者つまり運送人がそもそも当該の電子式船荷証券の法的枠組を他の関係者全員との間で承認している限りは、その具備は凡そ問題にならないという趣旨でしょうか。因みに、筆者は、第三者対抗要件は、江頭教授の指摘の点に加え、別の理由でも、実際上あまり神経質になる必要なかろうと考えます。というのは、それが問題になるのは債権の二重譲渡がされる場合で、TEDIにせよ何にせよ、電子式船荷証券の法的枠組においては、まずシステム的にそれが不可能にされているはずですし、にもかかわらずそれを通常の指名債権譲渡のやり方で行うなどすれば、それ自体電子式船荷証券の法的枠組における最大の契約違反であって、以後そこからは放擲されることになり、事実上そこまでする例は出てきにくいと思われるからです。
18 輸出入の間に商社が介在し、それが輸入手続をいわば代行して運送契約上の荷受人となるような場合や、本社と海外現法間の輸出入の場合などには、実際にもそのようなこと(船荷証券の譲渡とパラレルに物権が移転していないこと)があり得ると思いますし、何より、理論的に凡そあり得ないと断ずる理由はどこにもありません。また、Possessorが何らかの物権を取得するにしても、それが引渡請求権までは認められないところの担保的権利である場合もあると思われます。
19 Boleroの場合に相当する規定は、Rulebook 3.6です。