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III. 船荷証券の電子化に伴う若干の法的問題

 

1. 本稿の主題

 

船荷証券の電子化ないし電子式船荷証券とは、ごく一般的に言えば、従来の紙の船荷証券の内容を電子情報化したうえ、紙の船荷証券の発行・流通・回収のプロセスを、関係者間における船荷証券情報の電子的データ交換(Electronic Data Interchange)の形で行おうというものであると言えます。

従ってそこでは、従来の紙の船荷証券が果たしてきた役割・機能あるいは従前の紙の船荷証券の発行・流通・回収のプロセスの中で関係者間に発生・変更・消滅していく法律関係が、関係者間における船荷証券情報の電子的データ交換の中においても基本的に同様に実現されている必要があります。しかし、現時点では、電子式船荷証券について、その役割・機能あるいはそこから生じる法律関係を包括的に規律する法令況や国際条約はありませんから、その実現は、船荷証券情報の電子的データ交換の当事者、換言すれば電子式船荷証券授受の当事者間における、契約による規律(契約的規律)(これがいわば電子式船荷証券の法的枠組(legal framework)とでも言うべきものとなります)によってなされることが必要です1

本稿では、そのような契約的規律(電子式船荷証券の法的枠組)を設計していくうえでの問題点につき、そのごく一部をランダムに取り上げ検討したいと思います。また、電子式船荷証券とは、もはや観念のみの産物ではなく、既に一応実用化されているBolero2(これは元々は1]世界の複合運送事業者の参加する保険組合であるTT Club及び2]世界の金融機関間の電子的決済機関であるSWIFTのジョイントベンチャーです)や、実用化へ向けての最終段階とされるTEDI3(これは元々我が国通産省の予算事業である国産の電子式船荷証券プロジェクト(正確には貿易関係書類全体の電子化プロジェクトで、「貿易金融EDI共通基盤システム」開発プロジェクト及び「TEDI共通規約」作成プロジェクトの2つからなる)でしたが、昨年11月14日、我が国の商社・金融機関・コンピュータ会社を中心としてTEDI Clubという任意団体が設立されました。)があり、それらにおいては、それぞれ上に述べた意味での契約的規律ないし法的枠組が既に設計されています4ので、それらの内容も検討します。かなり立ち入った意見を述べさせて頂いておりますが、もとより、本稿のすべての意見は筆者個人の意見です。

 

1 木村宏弁護士は、「電子式船荷証券とは、船荷証券の有する機能を電子を媒体として行う契約取引による権利・義務関係の設定を通して実現することを意味する」と述べられていますが(木村宏「電子式船荷証券に係わる法的考察(第三回)」(雑誌「海運」2000年10月号68頁以下・同頁)、筆者が述べるところと同趣旨と解されます。

尤も、紙の船荷証券の場合も、その発行・流通・回収をめぐる法律関係を巡る国際条約がある訳ではありません。いわゆるHague Rules、Hague-Visby Rules、Hamburg Rules等は、基本的には船荷証券の発行される国際海上物品運送契約における運送人の責任について規律するものであって、本文に述べた意味での条約ではありません。にもかかわらず、紙の船荷証券が特段の契約的規律なしに世界的に輾転流通しているのは、それが商慣習に発して歴史的に徐々に発展した結果、現在では、世界の殆ど全ての国で(内容の差こそあれ)その発行・流通・回収をめぐる法律関係を規律する法律があって、それに依拠して法律関係が処理されても特段の混乱が生じない筈という前提があるからだと思われます。

2 Boleroについては、http://www.boleroassociation.org及びhttp://www.bolero.net参照。

 

 

 

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