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1.2.2 船荷証券の危機の回避

もう一つの問題は、1960年代にコンテナ船などの高速化により船舶の仕向港への到着が早くなり、船積書類は、たとえ航空便で郵送しても、銀行経由のルートで処理されている結果、貨物が仕向港に到着しても船荷証券が未着のため、荷受人も運送人も困惑するという事態がしばしば発生したのです。これが、船荷証券の危機または高速船の問題と呼ばれる現象です9。上述のように、実務上、船荷証券の危機を回避する方策の一つとして、船荷証券(および為替手形)を買主に直送することが行われますが、これは極めて限られた場合に使用されます。あるいは、船荷証券の一通を船長託送とする方法がありますが、現在、日本ではほとんど使用されていません。この方法には問題が多く、船荷証券の危機を回避する良策とは言えません。そこで、この問題の解決策として、船荷証券を使用しない方法が検討されたのです。

第1は、船荷証券に代わって海上運送状(Sea Waybill; SWB)を使用する方策です。SWBは権原証券ではないので、荷受人は、書類を提出しなくても、仕向港で貨物を受取ることができます。第2は、電子式船荷証券を使用する方策です。第3は、荷為替信用状に代わってスタンドバイ信用状を使用する方策が考えられます。上記のように、船荷証券の危機が発生するのは、船積書類が本船の到着に間に合わないからですが、これが遅れる理由の一つは、輸出地および輸入地において銀行が、荷為替信用状取引の厳密一致の原則に従って、船積書類が信用状条件に一致しているか否かを厳密に照合しているために、時間が掛かることにあると考えられます。そこで、荷為替信用状の使用を止めて、これに代わって、買主はスタンドバイ信用状を手配し、売主は船積書類を銀行経由でなく、買主に直送することが考えられます。ここでは第1および第2の方策について述べます。

 

1.3 貿易手続簡易化とUNSMの開発

 

1.3.1 貿易手続簡易化の定義

貿易手続の簡易化は、簡素化または合理化とも言われていますが、これについて、国連ECE事務局は、次のように定義をしています。即ち「貿易手続とは、貿易における物品の移動に必要とされるデータの収集、提供、通信および処理に関わる諸活動、慣習並びに公的手続をいう」のであり、また、「貿易手続の簡易化とは、共通のレイアウトに基づく貿易手続と書類作成・処理の組織的合理化」であります。

 

9 19世紀にも同様の現象が起きています。例えば、1839年のBarber v. Taylar事件(9 L.J.Ex. 21)、1883年のSanders v. MacLean & Co.事件(11 Q.B.D. 327; 52 L.J.Q.B. 481)等では、船荷証券の遅延が問題となっています。船積書類の提供が貨物の到着よりも相当遅れたことを理由に、買主は書類受理を拒んでいます。当時は、船積書類も船便で送られたので、貨物の到着に間に合わなかったことは容易に想像できます。その後、航空便で船積書類が送付されるようになって、この問題は、近距離の海上輸送の場合を除いて、一応は解決しましたが、コンテナ荷役や高速のコンテナ船の就航により再燃したのです。

 

 

 

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