FEMモデルを図3.5-1から図3.5-7に示す。標準的なD/H VLCCとしては、満載排水量で約345000トン級のものを設定した。衝突解析には、FEM汎用コードであるLS-DYNAの造船業基盤整備事業協会カスタマイズ版(大型船体構造特化版)を使用した。鋼板の破断・溶接部の破損を効率的に考慮可能であり、構造破壊と船体運動との連成現象を一括して扱える。
衝突船の前進速度としては輻輳する海峡・港湾内での上限航海速度である12ノットを仮定した。なお、衝突船の積付はバラスト状態を想定した。以下がFEM衝突解析結果である。
Suezmaxタンカーのバルバスバウが扁平形状標準型防撓構造である場合、D/H VLCCの縦通隔壁(内殻)に最後の段階で破断が生じているが、バルバスバウにも圧縮と横曲げによる圧潰が相当生じている。これに対して、Suezmaxタンカーのバルバスバウが扁平形状緩衝型防撓構造である場合には、船側外板(外殻)の破断開始以前の時点でバルバスバウの圧潰が始まる。一方、内殻の破断はやや遅延している。以上から明らかな様に、扁平形状バルバスバウであれば、最高圧潰耐力は構造様式によらずほぼ同等である。外殻の破断時点までに吸収したエネルギー量の観点では、緩衝型構造の方が3倍程度有利である。即ち、外殻が貨油タンク隔壁を兼ねるシングルハルタンカーに対しては、1.7倍強の限界衝突速度の向上が期待できる。反面、圧潰が早期に生じるので接触面積の増加も早いが圧潰強度が低いので、バウの圧潰によるエネルギー吸収量は相対的に少ない。その結果、内殻の破断時点までに吸収可能な総エネルギー量の観点では、防撓様式の優劣は顕著にならないという結果になった。
Suezmaxタンカーのバルバスバウが尖鋭形状標準型防撓構造である場合には、低接触力となり且つ、外殻・内殻共に破断時点が早く不利である(12ノットの衝突速度の場合、内殻の破断発生時点までに必要なエネルギー吸収量の約25%程度しか吸収していない)。内殻破断時点までに吸収したエネルギー量の観点では、扁平形状の方が約3倍有利である。従って、内殻破断(ダブルハルタンカーの耐衝突防護)の観点からは「扁平形状」が重要なパラメーターであり、外殻破断(シングルハルタンカーの耐衝突防護)の観点からは「構造様式」が次に重要なパラメーターであるとの知見を得た。
超大型コンテナー船のバルバスバウが狭幅尖鋭形状標準型防撓構造である場合には、Suezmaxタンカーが衝突する場合に比較して低接触力で持続時間も短い。バルバスバウ全体の曲げ変形が或る程度生じているものの、形状が尖っている為に接触面積が小さく且つVLCCの船側構造よりも高強度なので、内外殻の破断が早期に生じている。12ノットの衝突速度の場合、内殻の破断発生時点までに必要なエネルギー吸収量の約20%程度しか吸収していない。
超大型コンテナー船のバルバスバウが狭幅尖鋭形状緩衝型防撓構造である場合でも、衝突開始直後に於ける接触力の値に大差は無い。ただし、直後に外殻が破断してバルバスバウが貫入する結果早期に内殻の破断も生じていたのに対して、外殻の破断も生じないとの大きく異なる結果になった。