(3) 損傷時復原性の要件(MARPOL)
前項で指摘したように、損傷時の船体は移送により沈下量あるいは横傾斜がより大きくなる可能性が高い。即ち、移送を考慮して損傷時復原性の要件を満たす必要があり、これにより移送が制約される可能性がある。
(4) イナートガスおよびガス検知の要件(SOLAS)
ダブルハルタンカーでは二重船殻バラストタンクにイナートガスを供給する設備およびガス検知設備が要求されている。これは、シングルハルタンカーに比べ、貨物油タンクとバラストタンクの接触面積が格段に大きくなり構造も複雑化するため、バラストタンクへの油漏れの危険性が増大するという考えに基づいている。
貨物油タンクからバラストタンクへの移送装置を設けるということは、非常時に移送によりバラストタンクに油が入るだけでなく、通常時でもバルブからの漏洩により本質的にバラストタンクへの油漏れの危険性があると判断される。現SOLASには移送装置を設ける場合の規定は当然ないが、少なくともダブルハルタンカーに要求される設備は必要と考えられる。
2.5.3 船主経済の問題
最後に、移送装置を装備するためのコストの問題である。基準案を満足する設備の例として、一般的な現存シングルハルVLCCに対する追加設備として必要なものを挙げると次のようになる。
1) 500φ鋼管 約150mと管付属金物および管サポート
2) 500φ油圧制御バタ弁17個
3) 弁リモコン用電磁弁17個および電磁弁ボックス
4) 弁リモコン用AL-BRASS管 約900mと管付属金物および管サポート
5) タンク圧力計11個および圧力計取付け金物
6) 弁リモコン、液面計、圧力計用 船橋までの信号電線と敷設金物
7) 監視制御盤 1式
改造工事の費用は各船個別状況、即ち、既存設備、構造との干渉等の配置、配管上の制約により左右されるので一概に言えないが、上記設備を追加するとすれば50,000千円以上になると考えられる。
2.6 まとめ
1999年に発生したエリカ号の油流出事故を契機に、現存シングルハルタンカーのフェーズアウトを促進する機運が高まり、2000年秋のIMO MEPCにて規則改正が基本的に合意された。フェーズアウトする最終年限は2015年と2017年の2つの選択肢が残されているが、いずれにせよ、現存シングルハルタンカーが存続できる期限が短くなることは確かである。