2.4.2 移送開始判断のシナリオと監視制御設備に対する基準案
(1) 損傷タンクの特定
各貨物タンクの液面と圧力をモニターしておく。液面の1次設定値を積込み時の液面マイナス30cm程度、2次設定値をマイナス50cm程度とする。圧力の設定値はバキュームリリーフ弁の設定値マイナス200mmAq程度とする。液面あるいは圧力のどちらかが設定値以下になった時に1次アラームを、両方が設定値以下になるか、液面が2次設定値以下になった時に2次アラームを発するようにする。
液面は船体動揺の影響を受けるので、動揺周期以下の成分をフィルターにかける必要がある。また、2次アラームは1次アラーム発生後の液面変化を検知して発生するようにし、液面計の故障時に一気に2次アラームを発しないようにしなければならない。さらに、荷役作業時あるいは航海中のトリム調整のための貨物の移動時にアラームを発しないように、荷役制御装置とのインターロックを装備する必要がある。
タンクの圧力を検知するためには、航海中に各タンクを他のタンクと独立した状態にしておかなければならない。具体的には、イナートガス管またはベント管の各タンクへの止弁を航海中に閉鎖しておくことになる。この時、バキュームリリーフ弁が故障で作動しなかった場合は事故が起こらなくても圧力は設定値以下に下がる可能性があり、事故が軽微で油流出流量がバキュームリリーフ弁の許容流量以内である場合は設定値以下に下がらない可能性もある。バキュームリリーフ弁は通常貨物タンク内の温度変化に対応する小容量のもの(いわゆるブリザー弁)であるが、貨物油の荷揚げに対応する大容量の弁を装備している船もあるので、圧力検知がどの程度の損傷まで有効であるかを確認しておく必要がある。
以上より、タンク損傷の検知は原則的にはより直接的な液面検知を正とすべきであるが、事故の衝撃で液面計が故障する可能性もある。液面計が万一故障した場合でも1次アラームを発する可能性を残すために圧力の検知を併用する必要があると考える。
(2) 移送タンクの選定
中央タンク損傷の時は移送配管されている両舷のバラストタンク、船側タンク損傷の時は損傷タンクと逆舷のバラストタンクを移送タンクとする。
事故としては座礁と衝突の両方が考えられるが、衝突の場合中央タンクまで損傷が及ぶことはほとんどなく、また中央タンクまで損傷が及ぶような大事故の場合は移送による油流出低減は期待できない。即ち、中央タンク損傷の時は座礁を考えればよく、この場合たとえ移送先のバラストタンクが同時に損傷していても海水より軽い油は移送タンクの上部に貯まり、船底破口から流出する量は少ないと考えられる。一方、衝突による船側タンク損傷の時は、移送先のバラストタンクが同時に損傷していると、移送した油も船側破口からほとんど流出してしまうので、逆舷タンクへの移送が必要になる。