2. 強制油移送装置の検討
2.1 調査研究の目的
本研究は、タンカーが油流出を伴う事故を起こした際に損傷したタンクから強制的に健全なタンクへ油を移送する強制油移送装置について、その効果を確認するとともに規則化に当っての課題の抽出およびその対策を検討し、基準案を策定することを目的とする。
1994年以降に建造されたタンカーはMARPOL ANNEX I 13F規則にしたがってダブルハルとすることが義務づけられているが、本研究は同規則による規制を受ける前のシングルハルタンカーを対象とする。ダブルハルタンカーについては油流出に至る損傷を受ける確率がシングルハルタンカーに比べて格段に低いことから、より実効の大きい現存シングルハルタンカーに対して強制油移送装置を検討するものである。
1997年に発生したダイアモンドグレース号の座礁事故の際、損傷した油タンクと隣接するバラストタンクとの隔壁が破れ、偶然に大量の油がバラストタンクに流れ込んだことにより、油流出量が予想外に少なかったことが知られている。この事実は、図らずも油の強制移送が油流出量の低減に効果的であることを証明している。
2.2 強制油移送配管の試設計
大型(260,000トンVLCC)中型(66,000トンパナマックス)および小型(18,000トン)のシングルハルタンカー3船型を対象として移送配管を試設計した。各船の船型要目を表2.2.1に、タンク配置および試設計移送配管を図2.2.1〜図2.2.3に示す。
移送は配管内の弁の開放により重力によって行うので、移送能力は配管口径で決まる。必要移送能力は移送装置にどの程度の効果を期待するかによって決まるものだが、基本的には同一の油流出低減効果を得るには、船の大きさに関わらず、損傷規模に比例した移送能力が必要となる。
ダイアモンドグレース号の損傷は小さなクラック程度で破口面積にして0.3m2強であったことが分かっており、また統計データから軽度な損傷事故が極めて多いことからも、現実的な口径の移送管でかなりの油流出低減効果が期待できる。
移送管高さは、座礁による船底損傷の場合は移送のヘッド差を大きく取れるタンク底部が最も有効であるが、衝突による船側損傷を考えると油流出の過程で海水がタンク底部に溜まっていくので、喫水高さに近いほうが最後まで油の移送に寄与できる。現実的にはこの中間の高さにするのが妥当と考えられる。
試設計した移送配管の設計思想は次のとおりである。
1) どのタンクからでも両舷のバラストタンクに移送できるよう配管する。特に、衝突事故で隣接するバラストタンクが同時に損傷しても逆舷のバラストタンクに移送できるのは有効である。