1. はじめに
1989年のアラスカ沖のエクソンバルデス号の座礁事故後、相次ぎ発生するタンカーからの油流出事故は、海洋環境に甚大な影響を与えるとともにその対策の必要性を強く認識させた。タンカーの構造に対しても、国際海事機関(IMO)において二重殻またはそれと同等な効果を持つことが義務づけられた。
しかし、その後もタンカーからの油流出事故は引き続き起こっている。96年2月にはシーエンプレス号がイギリスで座礁事故を起こし、6万5千トンの原油の流出事故を起こし大規模な環境汚染を引き起こした。日本でも、97年1月に発生したナホトカ号の事故は、日本近海で発生した油流出事故としては最大の被害を与え、97年7月には日本経済の中枢である東京湾でダイアモンドグレース号が座礁事故を起こし、国民に油流出事故の脅威及びその対策の必要性を強く認識させた。この2件の事故に対し、運輸省(現、国土交通省)は対策検討委員会を設置した。そしてその検討結果として、防除資機材の整備、防除体制の拡充等の方針に加え、油流出を低減するための技術の研究及びその基準化の必要性を掲げている。
本RR76WGでは、3年計画(平成10〜12年度)で事故時の油流出を低減する技術等の研究を行い、将来の基準化、MARPOL条約の改正に向けてその妥当性を検討する。
具体的には、座礁、衝突事故時に損傷タンクから油を強制的に健全なタンクに移送する強制油移送装置、及びタンカーに他の船舶が衝突した際に、衝突船側が大きく壊れることにより被衝突船側の構造破壊を少なくする緩衝型船首構造について、その効果を研究すると共に強制化にあたっての課題の抽出及びその対策を検討し、設計案、基準案を策定する。