日本財団 図書館


8.2.4 ケース・スタディー4<貨物輸送に力を入れるフェリー会社の場合>

この船社は高速フェリーとA1、A3型のRoPaxをスカンジナビア・バルチック海航路で運航している。1990年代に北海航路を廃止したが、従来投入されていた船腹をバルチック海に移すことはしなかった。旅客設備が大きすぎたので、より適切な航路向けに長期用船に出した。バルチック航路向けに旅客フェリーを貨物輸送用に改造し、現在、さらに貨物の比重を高めたA3型RoPaxの新造船を発注している。この船社は有人トラックを輸送するので、いずれにせよ旅客設備のある船を必要とし、また乗用車に乗った旅客があれば、それにも対応しなければならない。

RoPaxは、旅客収容能力の大きいフェリーと貨物専用フェリーを併用する運航方式に取って代りつつあるが、RoPaxに取って代られるのは、旅客フェリーの方で、貨物用RoRoは引き続き運航される。しかしいずれの航路にもその独自性がある。寄港地やそれぞれの港までの距離も異なれば、各港それぞれの特色もある。したがって船舶とその船速は、投入する航路事情に合わせて計画されなければならない。

免税特典が失われたことにより、旅客からの収入の一つの道が閉ざされ、この船社の貨物重視への戦略的転換は、エーレスンド橋の開通とリューベック/ロストック間の高速道路の開通予定によっても加速された。これらインフラ面での変化は、いずれも貨物車より乗用車の輸送に大きな影響を及ぼす公算が高い。

同社は航路の条件に基づいて新造船の概略仕様書を作成し、RoPax船の建造能力にしたがって10の造船所と接触した。うち5造船所は納期が折り合わずに直ちに対象から外された。2造船所に正式のオファーが求められ、結局、国内の造船所が選ばれた。

この船社が極東の造船所(大宇と三星に引合いが出された)について感じた問題は、いずれも標準的な船を多数建造することに慣れていて、RoPaxでは設計が1隻ごとに異なるという事実に不慣れだということである。RoPaxは決して標準的な船ではない。三星は毎年38隻を建造しているが、今回選定された造船所は年間1隻しか建造しないので、船主としてはきめ細かい対応が期待できると感じている。国内の造船所とは非常に良好な関係を維持しているので、共同作業に便利でもある。

RoPaxの船速の高速化は行っておらず、別途、最高28ノットの高速船を、全く新たなRoPax向きの長距離地中海航路用に建造中である。

 

8.2.5 ケース・スタディー5<トレーラ輸送に力を入れるフェリー会社の場合>

この船社はスカンジナビア・バルチック海航路でRoRoによる貨物輸送を行っているが、対象は有人トレーラなので、その運転手のために旅客設備を必要とする。したがって一部の航路では旅客/乗用車輸送も行う可能性があるが、主体はあくまでも運転手付き貨物輸送なので、旅客/乗用車は付随的要素に過ぎない。

EU域内における免税販売の廃止により、市場における同社の立場は有利になった。旅客の比重の高い競合船社は、その収入の大半を船上の免税販売に依存していたからである。これら他社は今では、免税区域としてEUから特免を受けている、Ahvenanmaa経由の航海を余儀なくされている。この特典もいつまでも続くとは限らない。

貨物輸送では時間の要素が重要性を増しているので、短距離航路は競争上有利であり、配船スケジュールは顧客の貨物輸送会社のニーズに配慮して決定される。

既存の2隻のA3型RoPax船は他の船社から新造時に転売を受けたもので、有人トレーラ輸送の需要への対応を中心とし、旅客/乗用車の輸送量付随的に期待するという考えで調達された船である。決定的な要因は、この船社がこの航路に参入を必要とし、新造船の竣工を待てなかったことである。購入した船舶は完全とはいえないが、ともかくも多目的であり、少なくとも入手可能という強みがあった。その後、同社は自社のRoPaxを新造する計画を立てたが、実行は今のところ延期されている。ヨーロッパの造船所の他に極東の造船所に対しても船価の探りを入れているが、極東の造船所が検討の対象になるものと見られる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION