4-3 シーリフト船整備に与える影響
米海軍は米国海運会社が続々と買収される現状に対して国家安全保障上の見地からのコメントを一切発表していない。このことは米海軍が無関心であるということにはならない。むしろ先に論じたように、今後の国家非常時のシナリオ、艦艇のあり方が不透明な現時点で経済原則で決まる米国商船隊のことにまで口が出せないということであろう。
しかし当然米海軍は今後のシーリフト船の質、量及び艦艇を含めて少ない予算でいかに多くのシーリフト船を確保するかの検討を行っており、可能な部分から徐々に実施されている。
米海軍は最近今後のシーリフト能力に関する二つの重要な発表を行っている。一つは1999年11月中旬に発表された強襲揚陸計画(Amphibious Warfare Plan)で今後2年に一度同計画の見直し版を発行すると言っている。
同計画によれば米海軍は海兵遠征3旅団を同時に世界の複数地域に派遣し得る強襲揚陸艦隊36隻の建造を望んでいる。問題は現在の艦艇建造予算では2008年にやっと2.5旅団分の船しか確保されないことである。いずれにせよ今後は米軍が海外の基地を確保することが困難となるので、紛争開始時に戦線に投入される強襲揚陸艦のシーリフト能力は後続の補給艦が到着するまで戦闘を続けられるものでなければならない。また多数のヘリコプターや垂直離着陸機MV-22が発着できる甲板を有し水陸両用強襲車両、上陸用エアクッション艇が発進できるものでなければならない。
別の発表で海軍は2010年の時点で必要とする事前配備シーリフト船の内容を公表した。本報告書は「将来の事前配備艦隊」(Maritime Prepositioned Force - Future)と呼ばれ、2010年までに現在の事前配備艦隊を総入れ替えしようとするものである。
本報告書の内容が検討され予算がつくまで4-5年かかると思われるが、海軍と海兵隊が将来の戦闘をどのように考えているかを理解するために参考となる。海軍及び海兵隊はこのプログラムを「海上基地プログラム」と呼んでいる。先に述べたように、将来の戦闘では従来のようにシーリフト船や一般商船で紛争地近くの陸上拠点に大量の軍需物資を運び、その物量で紛争解決のための戦闘を続行するのは不可能である。将来戦では多くの物量は船から地上軍が必要とするだけその都度運ばれるようになる。現在海軍は海兵隊が地上戦闘で必要とするタンク、砲、車両、軍需物資を満載した9隻の事前配備艦を維持しているが、将来の海上基地化された事前配備船では資材を満載するのみでなく、陸上に資材を輸送するためのエアクッション艇発進機能、多数のヘリコプターや垂直離着陸機の発進機能、紛争の解決方法が変わった場合洋上で積み荷の積み出し順序を変えられるスペース、海兵隊員が船に乗り組んで機材を装備するスペースが必要となる。