現在のような平和時においては株主の意向が企業の動向に大きく影響する。このことは国家安全保障に最も関係が深いと思われる兵器産業や航空機産業においてもしかりである。ウォール・ストリートでも兵器産業の大西洋をはさんだM&Aが格好の話題となっている。
クリントン政権が軍事費を増額しているといっても年率の伸びは3-4%程度の状況であり、最低8-10%の伸びを期待する株主の意向との間には多くのギャップがある。
兵器産業や航空機産業の産業基盤もグローバリゼーションと一層の生産性向上が必要なことは他産業と同じであるが、極度に国家安全保障と関係が深いため海運業のように簡単にはM&Aが許されず、他産業では今や一般的となっている国境を越えたM&Aによるグローバリゼーションは限られたものとなっている。理由は兵器産業のM&Aに対する法の壁が厚いためであるが、兵器の場合M&A以前の輸出やライセンス契約の段階で技術的ブラックボックスを付けざるをえない等解決すべき問題が山積していることである。それにもかかわらず大西洋をはさんだ兵器産業のM&Aは「ゆっくりしたペース」ではあるが必至であるとみられている。
海運業のM&AとMSPの問題も上記のような状況の中で理解していく必要があろう。海運業はM&Aが生き残りのために避けて通れない方策となっている産業である。一層の技術革新といっても世界の海運業は発展途上国も含め同じような技術を使わざるをえない状況である。
海運業が国家安全保障上重要なことはだれしも認めるところであるが艦艇の必要建造隻数すら明確な答えがない現在、保持すべき米国商船隊の質と量については今後の検討を待つ以外に手はない。