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以上のように、軍備という国家安全保障の基本方針が不明確ななか、重要度としては下回る海運業の国家安全保障に対する影響を云々することは困難である。1990年代に新しい科学技術を基に民生産業が伸びたのは米国のみならずヨーロッパ、日本その他発展途上国を含めた世界共通の現象であり、1990年代後半から世界の産業界は海運界のみならずM&Aやアライアンスによる新たな巨大化と、コンピューター技術等の最新技術の導入による一層の生産性向上の時代に入っている。

今回の産業界のグローバリゼーションは民間産業先行が特徴であり、政権発足当初米国製造業復権のために積極的に産業行政に介入したクリントン政権も今回の企業間のM&Aを経済原則の成り行きに任せている。

海運業との関連において最も大切なことは、MSP助成の終了する2007年頃までに国家安全保障の考え方が確立し、付随的にせよ民間外航商船の助成確保の必要量がはっきりするかどうかということである。運航助成は今後船員確保の視点がより重要視されるとみられるが、外国海運会社に買収されても米国市民が乗り組む米国コントロールのオペレーション会社を認めたMarAdの施策は米国船員確保という面からM&Aの前後で何等の影響も受けないという意味で好施策である。

 

MSP助成を受けている海運会社は一様に助成を受けることを喜んでいるが、だからといって自社の将来を助成にかけているわけではない。現在のMSP助成金は最初から米国船員のコスト高を全部カバーできるわけではなく、コストダウンの自助努力が絶対要件となっている。

また1年ごとに更新する10年の助成プログラムでは船齢25年の船の建造コストに魅力を与えるほどの額ではない。MSPで海運会社が狙っているものは一度きりの助成金よりもMSP船であることによる軍需物資や政府貨物の輸送による利益である。しかし冷戦構造の終結以降、政府貨物も減り続けており米国籍船であることの魅力は益々減っている。

 

海運業のM&Aの結果、米国に生まれた米国籍のオペレーション会社は逆の意味の便宜置籍船運航会社である。便宜置籍船は通常税法上の利得を得るために海運先進国がリベリアやパナマに置籍することであるが、MSPの場合は米国の助成を得るための米国置籍である。

 

 

 

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