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4 M&Aと国家安全保障

 

4-1 国家安全保障の今後

1990年代初頭に冷戦構造が終結し、それまでソ連圏と対決する第三次世界大戦を想定して展開されてきた米国の国家安全保障政策は軍備のあり方、軍事技術の開発、造船や海運等のような高度に国家安全保障に関係する産業のあり方等全てのレベルにおいて見直しを迫られていたにもかかわらず、世界各地で多発的に同時に発生する局地的紛争に対処するための軍事力の保持という漠とした目標以上の総合的国家安全保障政策が示されることはなかった。

1990年代は米国が冷戦構造解消により得た余力を製造業の復権、インフォメーション・ハイウエーの構築、21世紀科学への投資等に主力を注いだ10年であり、国家安全保障のための投資は、予算が廻せないという理由だけでなし崩し的に縮小されてきた。1990年代には、ソマリア、ハイチ、ボスニア、イラク、コソボ等で紛争が起き、いずれも国連軍の名の下に処理されてきたが、必ずしも国連軍相互の協力がうまく行ったとは言えない。しかし何れも米軍が中心となったことだけは事実である。

 

2000会計年度の予算教書においてクリントン大統領は軍備を保有する意味が国家間の対決解消から世界に同時に多発する脅威の除去に移っていることを明確に示し、この脅威を大量殺戮兵器の蔓延、米大陸への直接ミサイル攻撃の危険性、国際テロリスト、麻薬組織からの防衛、組織的密入国に対する国境防衛等と規定しこれ等に対処するために軍事費の増額を盛り込んだ。この結果これまで海軍が老朽化した補助艦の代替として計画し建造費の捻出に苦慮していた商船型多目的輸送艦ACDXの建造が認められた。

冷戦構造終結後、減り続けた軍事費が再び増加に向かう傾向は今後上記の脅威を除去するための軍備の質及び量が明確化されるまで続くものと思われるが、艦艇の建造量に対しては厳しい予算環境が続くものと思われる。

 

現在米国では将来の軍備のあり方に関する議論が盛んである。海軍強化の方針は建国以来のものであり、19世紀のフィリピンやプエルトリコの領有で加速されたが、米国が孤立せずヨーロッパ、アジア諸国と連携を保つためには海軍力の保持は今後とも不可欠である。

世界情勢は米国が海外に基地を持つことを次第に困難にしている。しかし脅威の除去のため米海軍は世界の隅々の沿岸にまで進出せざるえない状況である。

 

 

 

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