しかし海運の現在の船腹過剰を自国内のM&Aのみで沈静化することは難しい。自国商船隊に対する政府の助成は国際間のM&Aのペースをスローダウンするであろうが、国際間のM&Aの持つ経済原則の効果が最終的に発揮されないと種々の問題が解決されない段階に来ているので、国際間のM&Aは進んでいくであろう。
船腹過剰沈静時の勝者は、国際M&Aによる経済原則の原理で節約を絞り出すことのできる会社であり、価格で顧客を引きつけることのできる会社であろう。
常客を獲得するのは、ドア・ツー・ドアよりさらに上のシェルフ・ツー・シェルフ・ロジスティクスを高度情報技術を駆使して達成した会社のみであると言っている専門家もいる。
また、ある専門家は最終的に成功するライナー会社はFedexやUPSが航空機を使ってやったことをコンテナ船に取込める会社であるとも言っている。FedexやUPSの持つサービスの迅速性を海運に取込むことは航空機と船の輸送の大量性の相違から容易ではない。米国にFastShipと称する会社が時速40ノットの超高速コンテナ船を建造し、とりあえず大西洋路線に就航させドア・ツー・ドアを7日で結ぼうとする事業を計画しているが、航空機の場合と異なりインターモーダル設備が追従しないのでその実現性には若干の疑問がある。
いずれにせよライナー会社の存続は今後10年間非常に厳しい状況に置かれることは間違いない。2010年には世界的に配船できるライナー会社は5社程度に絞り込まれると予想されるが、それが何処の会社であるかは誰も現時点で予測しえない状況である。
ライナー業界では次は何処の会社が何処に合併されるだろうかということが格好の話題となっている。
各ライナー会社とも今のところM&Aやアライアンスの設立に没頭している。あたかも買収・合併すれば海運業の全ての問題が解決するかのようである。しかし買収・合併しただけで海運会社の体質がすぐ良くなるものでもないことは合併後のP&O Nedlloydが再度人員整理せざるを得なくなった例を見れば自明である。M&Aと併行して海運業が他産業に比して遅れている部分を抜本的に変革しない限りライナー会社の体質は良くならないというのが大方の見方である。
後で詳述するが、1998年海運改革法(Ocean Shipping Reform Act of 1998)はライナー会社と荷主の新しい関係により海運界の革新を意図しているが、ライナー会社がM&Aに没頭している現在では海運改革法は必ずしも効果を表わしてはいない。