内航バージ業界
1996年にはバージ業界のM&Aが非常に多かった。表3-4は1998年3月現在のバージ業界のM&A実績を示したものであり、ドライ及び液体貨物バージ上位10社を示した表2-10と比較する必要がある。表2-10によれば、乾貨物バージ部門の最大手はACBL(American Commercial Barge Lines)である。ACBLの親会社ACLはシーランドの親会社CSXの一部門であったが、前節で述べたCSXのリストラの一環として、1998年前半にACLをベンチャー企業であるベンチュラ・グループに売却すると発表した。ACLの売却価格は8億5,000万ドルであった。これには現金、ACLに対する担保、新会社の34%の株式が含まれており、合併後の新会社はACLの名前をそのまま引き継ぐことになった。この取り引きの一部としてベンチュラ社は子会社のナショナル・マリン社を新ACLに吸収合併させることとなった。
合併後のACL (American Commercial Lines)はバージ運航部門のACBLの他、造船、海洋基地建設、河川ターミナル、ステベドア、船陸間通信等の事業を行ない、1998年の売上げ6億3,840万ドル、純益8,540万ドルであり、従業員数は4,275人となっている。
ACBLは表2-10に示すように、1999年7月の時点において3,679隻の乾貨物バージと447隻の液体貨物バージオペレーターである。ACBLが運航する河川は米国のミシシッピー川、メキシコ湾沿岸水路、南米の二河川系とマラカイボ湖である。また運搬貨物は鋼材、穀物、石炭、石油等である。
CSXがバージ部門を売りに出した1998年はバージ業界が1996-97年の大量建造後の船腹量過剰に悩んでいた時期である。1996-97年の2年間で乾貨物バージ及びタンクバージ合わせて2,600隻が建造されたが、これは1994-95年のレートが比較的良かったからである。イリノイ下流向け穀物輸送運賃はタリフ比94年の150%であったものが95年には238%となり、他の河川系でも似たような上昇率を示した。しかし1997年アジア経済の落ち込みで輸出穀物の需要が減り1997年末には上記レートは143%に落ち込んでいる。
タンクバージの船主は1990年油濁防止法(Oil Pollution Act of 1990: OPA90) 4115節の適用を受け、5,000DT以上のシングルハル・タンクバージは2010年以降就航が許されなくなる。したがってタンクバージ船主はダブルハル・バージ建造のための莫大な資金を必要とし、船腹量余剰と共にM&Aを促進する一大要因となっている。