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また、米国のコントロール下にある商船隊という意味で、米国船主・外国籍便宜置籍船の考察も必要である。本報告書では米国籍国際航路商船隊の記述を主とし、必要に応じて河川・湖上輸送、便宜置籍船隊につき解説する。ただし考察対象は貨物輸送部門のみとし、人の輸送に携わるクルーズ船やフェリーボート部門は対象外とする。

船舶による貨物輸送は他の輸送手段に比べ迅速性は劣るが、大量輸送性と運賃の低廉性では格段に優れ、過去において問題となった安全性も、コンテナ船の登場と船舶及び船舶運航技術の進歩により、他の輸送機関と同等にまで改善されている。

海運業は比較的発展途上国でも参入しやすい産業であるとともに、国家安全保障上の目的のため、時には経済原則を外れた視点からの拡大、維持が必要となる特性を持っている。海運業は兵器製造業に比べ遥かにグローバルであり、第一次、第二次世界大戦の際に、惜しみなく連合国に米国製武器を輸送した米国商船隊の実力が、連合国側の勝利を導いたことを考える時、兵器製造業に優るとも劣らない国家安全保障上の重要性を持っている。

本報告書ではまず第2章において、米国海運業のM&Aを理解する手助けとして米国海運業の生い立ち、船腹構成の現状、米国海運業の現状、主要海運会社概要について述べる。

第3章で本報告書の主題である米国海運業のM&Aについてふれるが、まず3-1において米国海運業が買収されるに至る背景となった世界海運業の趨勢を理解し3-2、3-3においてM&Aの具体例を国際航路、国内航路に分けて解説した後、3-4で海運業のM&Aに関する今後の動向について、海運界の大方の見方を紹介する。

米国の海運業は、歴史的に見て世界のどの大国の海運業よりも国家安全保障上の存在意義が強く、それだけに海運業が外国の大海運会社に買収されることは国家安全保障上の問題を惹起する。

この様な視点から、第4章では米国の国家安全保障政策の今後について考察した後、海運業のM&Aが運航助成MSP、シーリフト船整備、造船業に与える影響を通して今回の海運業のM&Aが持つ意味を考察する。

米国の海運業が強化されて、他海運国の企業を買収する実力を持つようになれば問題はないが、今迄の米国商船隊強化の立法は裏目に出ることが多かった。最近のM&Aの波に触発されて、米国商船隊強化の法案がいくつか話題となっているが、第5章で代表的な法案を紹介して、米国海運業の問題点を掘り下げ将来を考察する資とする。

 

 

 

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