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第2次世界大戦後から1990年初頭までの冷戦構造期間の前半は、軍事技術的にむしろソ連の方が優位を示した時代である。米国は宇宙開発から戦略ミサイル潜水艦(Strategic Missile Submarine:SSBN)の配備まで全ての面で遅れをとっていた。

1956年ソ連潜水艦が陸上ミサイルを塔載し米国の安全を脅かしていたにもかかわらず、米海軍は航空母艦中心主義を脱することができず、原子力航空母艦と随伴ミサイル原子力艦3隻からなる原子力艦隊を作って無寄港世界一周を達成するなどして海軍力を誇示していた。しかし1962-63年のキューバ危機は航空母艦中心主義の戦略思想の不備を露呈し、ここに米海軍も高性能の対潜水艦戦闘能力を持つミサイル駆逐艦及び中距離弾道ミサイルの発射が可能なSSBN中心の戦略へと移っていく。

 

1990年初頭の冷戦構造の終結とともに、米海軍は第3次世界大戦を想定した戦略から世界の何処かで同時に多発する局地戦に対処することを前提とした戦略に移っていくが、どのような軍事技術が必要かという時代に即した概念が設定され具体的な予算措置が講じられるようになったのはごく最近である。21世紀の米海軍のキー・ワードは沿岸海軍(Littoral Navy)、全電動艦隊(All Electric Navy)であり、質的に大変貌を遂げる予定であるがこれらについては後述する。

 

 

2-2 舶用工業と軍事技術

 

米国の舶用工業を理解する大きなポイントは前述のごとく2つある。1つは第2次世界大戦前の米国がモンロー主義で大西洋や太平洋を利用する国際通商を重視しなかった点、もう一つは上記にもかかわらず19世紀末のフィリピンやプエルトリコ等の海外領土権益保護のため強大な海軍を保有しなければならなっかたという点である。この2点は基本的に米国の舶用工業が軍事主導、民生従の構図を持っていることを示している。

 

第2次世界大戦以前の米国の対外政策はモンロー主義を保つための干渉以上に出ることはなかったが、当然自国の海外領土保全を危うくする動きには厳しく対処している。1904-5年の日露戦争でロシアの戦費はフランスが賄い、日本の戦費17億円の半分近くは英国、米国の外債で賄われたため、費用的には英仏戦争の観があったが軍事技術的にみてもロシアのバルチック艦隊を破った日本の連合艦隊の主力艦は全て英国のビッカース造船所や米国のフィラデルフィア海軍工廠で建造されたものであった。米国大統領セオドア・ルーズベルトは日露両国のいずれかが完勝して満州を独占し、いずれは米国の海外権益を侵すことを恐れ1905年6月両国に講和を勧告、同年9月5日ポーツマス講和条約が成立した。

 

モンロー主義は米大陸へのヨーロッパ列強の干渉を排除することを目的としたものであるが、その背景には太平洋岸の米国領土へのロシアの南下とラテンアメリカの独立に対するウイーン体制の干渉の防止がある。しかし、真の狙いは国内産業資本のための、西半球市場の確保である。

 

 

 

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