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わが国の造船業においても、韓国との競争力維持のために、業界の集約化の必要性が議論されている。造船業構造問題研究会がまとめた報告によれば、スケールメリットを生かしてコスト競争力の強化を図るためには、売上高2〜3,000億円程度への集約統合が必要であるとの示唆がなされている。これは、いみじくも集約統合後の米国造船産業トップ4の売上規模にほぼ一致している。

もちろん、日米両国の造船産業は核となる市場が異なるため、このような単純な数字の比較はあまり意味がない。しかしながら、「出来高払い」のため比較的収益性の高い艦艇建造と異なり、厳しい価格競争にさらされる商船建造を事業の中心とするわが国のトップクラス企業の売上高が1,000億円前後と低いことは問題なしとは言えない。

売上高2,500億円以上の規模を誇る韓国造船企業との今後の厳しい競争を考えた場合、わが国造船産業においても、M&Aを視野に入れた積極的な企業戦略の検討が必要ではないだろうか。

 

(3) スピンオフ後の集約統合

米国造船産業の集約統合が、まず大型多角経営企業の子会社から独立した造船会社にスピンオフした後に、次に造船企業どおしの水平統合により大型造船グループとなるという変遷を経ていることも特徴的である。

バス・アイアン・ワークスは1986年にCongoleum Cooperationから、NASSCOは1989年にMorrison-Knudsenから、アボンデール・インダストリーズは1985年にOgden Corporationから、それぞれスピンオフして独立した造船企業となっている。スピンオフ前の親会社は多岐にわたる分野で事業を行う多角経営企業であった。

またニューポート・ニューズ造船も、天然ガス製造・供給を中心とする多角的な事業基盤を有するコングロマリットであるテネコから、1996年に株式公開会社としてスピンオフしている。ハルター・マリン・グループも、1996年にスピン・オフする以前は、鉄道車両製造、鉄鋼、その他の事業を行うトリニティ・インダストリーズの子会社であった。

1980年代以降のこのような企業のダイベストメント活動自体は、造船産業に限らず、運輸、テレコム、エネルギー、金融サービス等の多くの産業分野で見られたものであるが、スピン・オフを契機として、各造船企業はスケールメリットを得るための手段としてM&Aの適切なパートナーとなる造船企業探しをすることが可能となったのである。

 

 

 

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