そういった意味では、大型多角経営企業からのスピン・オフは米国造船産業の統合再編に至る第一歩であったという見方もできる。
(4) 造船産業の集約統合に対する政府の管理
米国政府は過去10年間にわたって、米国造船産業における集約統合化の調整役という重要な役割を務めてきた。米国造船産業の事業のコアである海軍艦艇市場やジョーンズ・アクト等で保護された国内船市場は外国造船所との競争が存在しないため、集約統合による競争の低下を常にチェックし、場合によっては企業の合併・買収を阻止する政府の役割は米国造船産業の企業戦略にとって重要な影響力を持っている。
しかしながら米国造船産業の実態を見てみると、原子力潜水艦、原子力空母等の建造については実質的に競争は消滅したも同然であり、海軍艦艇の修繕分野においても大幅に競争が低下していることから、果たしてそのような政府の役割が十分機能したのか疑問の声もある。
さらに、そのような競争状態であるにもかかわらず、国防総省がジェネラル・ダイナミクスによるニューポート・ニューズ造船の買収やリットン・インダストリーズによるニューポート・ニューズ造船の買収の提案を却下した事例を見てみると、造船産業の集約統合化の流れのなかで生き残りをかける各企業の命運がその時点における政府の裁量に大きく左右されていることを感じずにはいられない。
そういった意味で、産業の統合再編についての政府の方針が明確に示される必要があり、また個別の合併・買収に対する政府の判断の透明性が十分確保される必要があるものと考えられる。