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7.3 結語

人類が社会経済活動を営んでいくうえで、物資の安定的な輸送を確保していくことは、過去においても将来においても最も基本的な条件のひとつである。発展途上国において今後見込まれる経済成長や進展著しい世界経済のグローバリゼーションは、今後さらなる国際貿易の拡大とこれに伴う貨物輸送量の増大をもたらし、これを支える輸送サービスに求められるニーズも益々多様化していくものと考えられる。外航海運は、一度に大量の貨物を運ぶことができ、かつ、輸送コストの面から見ても、輸送エネルギー効率の面から見ても極めて優れた輸送機関であり、今後も国際貿易においてその中心的な役割を果たし続けることは間違いがない。

輸送活動に伴う温室効果ガスの排出は、基本的にはそれぞれの輸送機関の輸送エネルギー効率と輸送する貨物の輸送総量に依存する。

低コストの大量輸送機関である外航海運については、前者の輸送エネルギー効率〜すなわち単位輸送量あたりの燃料消費量〜の改善はいわば永遠の課題であり、1970年代の石油危機を中心に格段の改善が図られてきた。将来にわたっても、本章にまとめたとおり、既存の技術を広範に適用することにより5%程度の改善は十分可能であり、これとCO2以外の温室効果ガスに対する対策をあわせて講じることによって、本調査において第一評価基準として掲げた単位輸送量当たりの温室効果ガスを6%削減するという目標は概ねクリアできるものと考えられる。さらに中長期的には、LNGや水素等の代替燃料を用いた機関やマイクロバブル等による抵抗低減技術の導入によりさらに15%程度の改善が可能であり、外航帆走商船、天然ガス改質舶用セラミックエンジン、燃料電池推進船等といった画期的な技術の開発研究も既に着手されている。このような技術を個々の船舶に適用し、実際に温室効果ガスの排出削減を図っていくことは、国際海事機関(IMO)を中心とした現在の国際的なスキームにより実現可能であり、今後その方向で国際的なコンセンサスを形成していく必要がある。わが国は、従来からのIMOにおける主導的な役割と、先進造船国としての技術開発でのリードの両面で、国際的に大きな貢献を果たすことができるものと考える。

一方、外航船舶で輸送される貨物総量の将来見通しについては、その具体的な伸び率についてはその見方に多少の幅はあるものの、世界の経済成長とともに全体としては着実に増加していくことは確実である。その結果として、前述したようなさまざまな技術を個々の船舶に導入したとしても、これによる輸送エネルギー効率の改善効果は外航船舶全体としての貨物総量の伸びに相殺されてしまい、温室効果ガスの総量としては逆に増大してしまうことになる。これを解決し、本調査において第二評価基準として掲げた温室効果ガスの排出総量の6%削減を達成するためには、減速航行といったような大胆な手を打つ必要がある。しかしながら、減速航行は輸送サービスの明らかな低下をもたらし、ひいては生産・流通システムの見直しやライフスタイルの変更を強いることになり、さらには経済成長の減速をもたらすおそれすらあるわけであるから、減速航行を実施に移すためにはこれを受認する社会的なコンセンサスの形成が不可欠である。また、これを実施に移すためには、他の輸送機関を含めた環境税の導入等、減速航行に対してインセンティブを付与する実効性のある制度の整備が必要である。

このように、外航船舶の運航に伴う温室効果ガスの排出総量を削減する事には極めて大きな困難が伴うが、われわれは健全な地球環境を保全し、持続的な発展を維持していくために、その目標に少しでも近づけるよう最大限の努力を払う義務があるものと考える。そのためにはまず、1]既存の削減技術の導入や輸送エネルギー効率の悪い老齢船の代替等、すぐにでも実行に移すことができる対策について、IMOにおける国際的な枠組みの制定に向けて早急に取り組むとともに、2]将来のさらなる削減に必要な先進的な技術開発を促進するために、環境税等を財源とした研究開発プロジェクトへの支援やクリーン開発メカニズム(CDM)の制度化によるインセンティブの付与等、必要な環境整備に取り組む一方、3]モーダルシフトによる輸送機関全体での排出総量削減を図るために、グリーン調達税制や環境会計の導入等により、荷主側がモーダルシフトを進めやすいような環境条件を整備する必要があるものと考える。

 

 

 

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