このサプライチェーンは、企業間垂直分業の形態として我が国のいわゆる系列と似ている面もあるが、後者が資本や取引関係あるいは人的関係を基盤に、ややもすれば対等でない支配従属関係で構成されているのに対し、SCMの概念では、サプライチェーンを構成する要素は、対等なパートナーであると共に一面では競争者でもあるという。すなわち、このような構成企業間にある緊張関係を基に顧客への提供価値の最大化を図るという点において、SCMは自律的な構成要素による欧米的な自由市場経済主義を原点としている、とのことである(Ref.2)。なお、この図2-1では、上述の「対等なパートナーであると共に一面では競争者でもある」というSCMとしてあるべき取引企業関係の後段の方はうまく表現されておらず、特定企業間の単なる製販同盟のようにも見えてしまうので、この図のみでSCMを語るのはいささか不適当であろう。すなわち、この図はあくまでも、取引相手との間でこれまでのように購買・営業担当者間の駆け引き、腹のさぐり合いといったことに貴重な人材と時間を使うような悠長なことはもはや過去の物になりつつあるというメッセージであると解釈すべきである。
さて発注者と納入者という位置づけで、従来ともすれば上下関係的に互いを見がちであった我が国の造船業と舶用工業は、上記の論に従えば元々船舶という工業製品を世に供給するに当たってのサプライチェーンの構成員同士であり、情報交換手段が人ベース・紙ベースであったことを除けば、既に両者は従来からある種のVEを営んでいたと言えなくもない。しかしながらVEやSCMといった言葉の中には、上記のように単に情報伝達手段が電子化するということだけではなく、その構成員が対等の立場で協力し共に働くという、ビジネスルールやまたそれ以前の意識の変革も含まれているのであるが、今後の電子情報化の進展により、顧客に日参して製品を売り込んだり資料を届けるといった従来のやり方が次第に変化して、発注・納入両者が等しくコンピュータ端末を介して情報のやりとりをし始めると、自ずと対等の気分が醸成されてくるといったことも自然の流れとしてあるであろう。
この情報交換の電子化がもたらす影響として、交換効率の向上という量的な事だけに留まらず、交換された電子情報が蓄積され再利用されることにつれて、双方の業務プロセスや交換される情報の中身自身が、また更には企業価値の源泉(セールスポイント)自体も、次第に変わっていくことが予測される。すなわち従来は、商品知識という形での納入者(生産者)から発注者(顧客)への情報伝達が主であり、注文仕様書や質問、クレームといった逆の流れは従であった。しかしながら今後は、顧客が生産者からの商品情報を受け取るに際しても、分厚い製品カタログや説明書を貰うという受け身の姿勢ではなく、逆に生産者の商品説明用のデータベースにアクセスして対話型で知りたい情報をピックアップしていく事になるであろう。すなわちこのこと自体が顧客から生産者への知りたいこと、疑問としていることについての情報発信となるのであって、これは一つの例であるが、従来からの質問、クレームも含め顧客からの情報が電子化されることにより、それが生産者側に蓄積され結果として生産者は膨大な量の顧客情報を手に入れることになる。