救命衣着用飛び込み体験
日本海難防止協会 企画部 笠間貴弘(かさまたかひろ)
富山県黒部市にある「くろべ漁業協同組合」において、九月三十日の一七〇〇〜一八二〇講習会開催、一八三〇〜一九三〇市営プールで飛び込み体験実習が行われた。当協会からは講習会の講師として企画部長が、また私も飛び込み体験実習調査および当協会の予備テスト実施で参加した。
一 講習会
出席者は、くろべ漁協組合員約六〇人と漁協関連フィッシャリーナのボート所有者などであった。
関係機関も伏木海上保安部(講師)を始め、黒部警察署、黒部消防署、富山県漁連も出席した。
「救命衣の常時着用化」を主題とし、当協会、海上保安部富山分室の講師から全国的な海中転落の実態、現在中央で行われている「救命胴衣の常時着用化」検討の現状、救命衣着用の必要性などについて、ビデオも活用し事例を挙げて分かりやすい説明、訴えがなされた。
出席者からの質問の中では、「シートベルト着用は義務化されている。これだけ海中転落者が問題になっているのに、救命胴衣の常時着用が義務化されなかった理由は何か?」という現場の当事者から注目に値するものもみられた。
二 飛び込み体験実習
最初に、合羽、長靴着用で救命衣着用なしで飛び込みが行われた。
浮いてきて上手に泳ぐ人がおり、聞いたところ、子供のころから泳いでいる人、潜水漁業者とのことで、このような人は海上平穏な状態の海では、浮いて泳ぐことができると思われた。しかし、海上模様が悪かったり、長時間となるとどうかなと確信は持てなかった。
なお、当然のこととはいえ、泳げない人は飛び込み体験は恐くてできないとのことで実証はできなかったが、そのような人が救命衣を着用していない場合は、間違いなく海中転落時に水を飲みパニックにおちいり溺死に至ると思われた。
漁船員は案外泳げない人が多いとのことだった。
泳ぎの達者な人は、息を止め水中で合羽は脱ぐことができたが、長靴は水圧で脱ぐことは困難とのことであった。長靴が脱げるか否かは泳ぐ能力に大きな差が出た。
なお、合羽などの中に水が入っているために、プールサイドで上から手を引いてあげるのに難渋した。このことから転落後一人で船に上がるのは困難と思われた。
次に合羽、長靴着用のうえ、救命衣を着用しての飛び込み体験が行われた。
救命衣を着用していると飛び込んでも浮き上がりが早く、確実に浮いていることが分かり、体験自習参加者に理解を得られたと思われる。また、体験者からは救命衣を着用すれば安心感があるとの意見が見られた。
三 日海防の予備テスト
この機会に日海防で計画している救命衣の実証試験の予備テストをさせていただいた。
合羽と長靴着用の操業時の服装に救命衣を着用したテストでは、浮力の異なる四着とも水面から口元までの垂直距離は一四〜一五センチメートルを保った。
最近の首周りや袖口が締まった合羽では海中に入っても空気が逃げない部分があるのか?案外に浮くな、という感じだった。
しかし、同じ服装でも救命衣を着用していない状態では、手足を動かさない自然体では、頭の一部が水面上に出るくらいで、口は水面下にあり、泳げない人は溺れてしまうと思われた。
海では救助船が来るのは何時間という単位であり、合羽、長靴着用の通常服装で漁労作業中に転落した場合、救命衣の着用なくしては溺れ死んでしまう確立は高いと実感した。