海水温が〇〜二度で四十五分、二〜四度で九十分、四〜一〇度で三時間というのが私たち人間の「保ち時間」のようです。従って海中転落して浮遊していてもこの時間内に救助しなければ死亡・行方不明者数を減らせないということになります。
救命胴衣の着用率が低いのは作業するのに邪魔になるという理由がもっとも多いのですが、作業の邪魔にならずに着てもらえる救命安全衣と、事故の発生を瞬時に正確に把握して、迅速な救助活動を支援するGPSを利用した通信システムを合体させることができないか、ということでこの研究は始まりました。
GMDSSの装置を義務付けられているのは大型船に特定されており、わが国の二七万隻の漁船の九八%が二〇トン未満ですから、ほとんどが搭載義務の枠から外れています。このような小型漁船の遭難通信システムを考えたときに、積極的な遭難信号でなければいけない、特定な場所から発信されているという意味で正確な位置がわからねばならないため、GPSを利用します。そして管理を小さな単位たとえば漁協単位とすることで、誤発信の確認を容易にし、なおかつ、今までの片方向の通信から、受信をしましたよと発信者に対して何らかの合図を送り、救助活動が始まったことを遭難者が知ることによって安心をして救助を待つことができるという、心理的な応援をもしようというものであればよいことになります。
一人乗りが多い小型漁船の漁業者を対象とするのですから、船に装備するものではなくて個人がもつ装備でなければなりません。GPSの情報(位置、ID、発生時間等)を通信衛星を介して陸上局に送り、陸上局ではそれを受けたことを遭難者に知らせる。これにはオーブコムまたは携帯電話(近海の場合)が使えます。情報は、緯度経度、時間、氏名、年令、所属団体、連絡先等が画面上に表示され、双方向で確認することにより、遭難者の精神的パニックによる無駄な行動をなくし、生存時間を延ばすことになると思います。
通信手段としてのオーブコムは、最終的に全世界どこにいても大丈夫というのが我々の目的ですが、現状では通信端末が大きすぎ、一キログラム以上あるので難がありますが、何とか解決したいと努力しています。携帯電話の場合はすぐに使えますが通信エリアが限られています。今のところ携帯電話では三〇〇グラム(バッテリー、GPSアンテナ、携帯電話)ぐらいでできます。オーブコムの方はGPSアンテナと送信用折りたたみアンテナ、オーブコム端末、バッテリー(八ミリビデオ用のもの)で構成します。陸上局のアンテナも開発中です。
遭難者がもつアンテナは長さ一七センチぐらいに作りましたが、最終的には手持ちのものでもよいのではと、折りたたみ式として、二〇〜八〇度くらいの角度で衛星キャッチ可能になり、性能としてもいけるとの見通しが得られました。
救命安全衣は、「作業の邪魔にならない」「暑くない」「水は通さず中の湿気は逃がしたい」という特性をもたせながら、さらに新素材を用いて漁具による怪我をも防ぎ、そして十分な浮力をもつものにしました。浮力は六・〇〜六・五キログラムくらいで規定にとらわれず自分の命を守るものとして開発しました。