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最悪の危機に備えることが生命と家族を守る

福井市漁業研究会

 

会長 山田芳弘(やまだよしひろ)

 

私が漁師になって間もないころ、先輩が錨止めをして操業中、天候が急変したためウインチで錨を巻き上げている途中横波を受け転落、岸近くまで泳ぎ着いたが力尽き死亡した例を目の当たりにしました。

これに対して父は、「錨ロープの末端を船に固定(縛る)するとともに、救命胴衣の着用と船中に戻る備えがあれば助かっていた。」と、残念そうに言っていたことを今でも強く覚えています。

私は一本釣りを本格的に始める際、今は亡き父より釣りの技術はもちろん操業中の危険に遭遇した時の回避する術についてもいろいろと教わり経験を積みました。また、父は新造船を建造する時に細かい部分に至るまで特別注文をし安全操業に配慮していました。私が今日あるのも父の教えを忠実に守っていたからだと思います。

今一つ私にとって危機管理を高める事例をあげます。今から九年前、私より三歳年下の同僚が、その日父親代わり出漁しましたが無人船で発見、操業中転落したと思われるとの連絡を受け、漁船約四〇隻が一週間くらい付近一帯を探しましたが、雨合羽のズボンと帽子を発見したのみで依然として行方不明のままでありました。悲しみにくれる残された両親、妻、三人の小さい子供たち、そして故人の母親は、水死身元不明者が現れれば連絡を受け確認して出向く重苦しい日々で、同じ漁師としてとても他人事には思えませんでした。

私はこれを機に、転落しても船中に戻れるようにペンドル(フェンダー)にステップロープを付けると同時に(経費約七、〇〇〇円)、救命胴衣を常に着用し内ポケットには五〜七メートルのフックつきロープを携帯しております。ケガをして船上に戻ることが出来ない場合には、これをペンドルの末端にフックして浮いたまま救助を待つようにできる二重の備えを考えました。

残念な話ですが、八年前にこの二重の備えを見て誉めてもらった方にも薦めましたが、取り入れてもらえずその方は相変わらず占いタイヤ一本下げて漁を行っていました。しかし海中転落により帰らぬ人となってしまいました。

これ以上海難事故を起こさないためにも、今一度危機管理についてご一考願いたく次のことを提案します。

1] 転落原因の改善策を末端にまで届く部会の設置

2] 船中に戻る等のさまざまな訓練の義務化

3] 漁業者の救命胴衣着用の義務化

4] メーカーに対して転落した場合に船中に戻れるハシゴ等の設置の義務化

 

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