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この二隻が正面衝突した。当時の海象は濃霧であった。両船は、濃霧にもかかわらず双方とも慣れている漁場のため、全速に近い速力A丸は一四・六ノット、B丸は一三ノットであった。

この速力で航行した場合は、両船とも船首があがってしまい前方は見えない状態になり、他船が前方から近づいてきても確認できる状態ではなく、さらに、濃霧という悪条件が重なって衝突に至ったというものであった。

この事故の問題点は、次のとおりである。

1] 昆布採取漁業は、いち早く漁場に到着しなければならず、速度競争が一段と激しくなること。

2] 船外機漁船は、速度が速くなると船首があがってしまい、前方が非常に見にくくなること。

3] 漁場がいつも操業しているところであり、「慣れ」のために、濃霧でありながら全速に近い速力で走行していること。

1]〜3]の問題点とも、エンジンの高速化が原因と考えられる。スピード競争が事故発生の重大な原因となることは如実に現れている。

 

表2 船舶間の衝突事故件数の推移

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四、事故事例による考察

一の船体剥離事故、二の舵・シューピースの脱落事故とも、高速化に伴い船体および舵・シューピースの強度が足りないための事故と考えられる。このような事故の場合、修理の面からみても、高額な修理になる場合が多く、以前なら舵が曲がるような事故であったものが高速走行のために脱落してしまう事故に至るということである。剥離事故についても同様なことがいえる

三の衝突事故については、漁業種類によっては漁場への到達を最重要視する傾向が強く、高速エンジンの出現はスピード競争を扇動する結果となっている。また、この事故は、衝突により乗組員が死亡しており、傷ましい結果となってしまった。

 

事故を未然に防止するために

これまでに述べてきた漁船の事故をいかに防止するかについて考えてみる。

エンジンは、一〇年程度で換装するがFRP製船体は使い続けるという小型漁船の実態は理解いただいたと思う。剥離事故や舵・シューピースの脱落事故を防止するには、次のことが重要であると考える。

 

機関換装のとき

走行速度は、当然アップする。

・事故防止の第一点

造船所に相談し、船体骨材、エンジン置き台等の補強を検討する。

・事故防止の第二点

鉄工所に相談し、舵軸の強度を点検し、細ければ太くする。

シューピースを点検し、横振れが大きくなるようであれば、シューピースを補強する。

 

エンジンは新しい

アンマッチ→事故につながる

船体は古い

 

これらのことを、造船所や鉄工所と相談して補強を行えば、今回述べてきた剥離や船尾廻りの事故はほとんどが未然に防げると考える。

衝突事故については、高速化により人命にまで及ぶ大事故になることがまま発生するので、スピードの出しすぎは前方がほとんど見えなくなるので船長は十分注意する必要がある。

以上、述べてきたように、漁船の高速化の問題点のうち多くは機関換装のときに発生すると考えられ、そのときに、船体の点検を行うことが非常に重要である。

この点を十分留意し事故を未然に防いで行くためにも、船体の十分な点検を関係者に是非お願いしたい。

 

 

 

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