たぶん磯崎さんたちは気付かなかったと思いますが。内容は、今どんな状態か?(外に出られず船橋内にいる)二人の状態は?(けがもなく元気である)竿(さお)等の障害物があるか=船上からの吊り上げになった場合、邪魔になるので=あれば撤去できるか?(竿が立っているが、船上を波が洗っていて外に出られず撤去できない)
切迫した状態であることは間違いない。すぐに救助に向かいたい。しかし天候不良でヘリコプターはすぐには飛べない。何とも歯がゆい思いでした。
救助現場
先行した航空機が漂流物を発見、我々の乗ったヘリを誘導しました。映像は二つあり、一つは傾斜してほとんど沈没状態の船体、もう一つは彼らの掴まっていた大きな浮体でした。
我々はその時の状況によって救助の方法を考えます。情報が入ってから現場に行くまでいろいろな状況を考え救助の計画を立て、実際の現場を見て最終的な手段を決定します。
今回は夜間であり、海面からの吊り上げということでホイストワイヤーによって一人の隊員が降下し、要救助者と一緒に吊り上がる方法、これを二回行いました。夜間ということは、我々自身も見失われる可能性があります。下から上はよく見えますが、白波のなか漂流者を探し出すのは至難の業です。今回は、ワイヤーがつながったままなので見失われる心配はありませんでした。
まず私が降下したのですが、予想以上に大きな波で一瞬彼らを見失ってしまいました。また、二人から少し離れた位置に降りたため、ワイヤーを引きずりながら彼らの所まで泳いで行くことになりました。しかしワイヤーがつながっているのと、波の上下で思うように泳げません。ワイヤーが張った瞬間には引き戻されてしまい、たどり着くまでかなりの時間がかかったような気がします。下では彼らに「一人づつ吊り上げる」ことを説明し、磯崎さんを初めに吊り上げました。通常ヘリは、少し離れた上空で待機しています。吊り上げ準備ができ、合図を送るとワイヤーを巻きながら機体も近づいて来るのですが、荒天のためヘリも安定していません。
海面からの吊り上げでは、ワイヤーが巻かれ海面を引きずられるように移動し、機体の真下に来たところで吊り上がります。ここで波が大きな障害になります。吊り上がったと思っても、波の山が来れば海中に没し、波の谷に入れば瞬間的に宙吊りになる。しばらくはこの繰り返し。こればっかりは私の意志ではどうにもなりません。「とにかく早く巻き上げて」と思うばかりでした。
我々は、マスク、シュノーケルを付けていますが、要救助者は余程でない限りそんなものは持っていません。ヘリの吹き下ろしの風は相当なもので、人を沈めてしまうぐらいの力もあります。我々が盾となって波しぶきがかからないように努力するのですが、今回はそれ以上に波の中を引きずられて、しんどい思いをしたのではないでしょうか。かなりの水を飲んだのでは。十分なケアーができなかったような気がして反省しています。
二回目に降下する際に、下で大の字になって浮いているのを見て一瞬ヒヤッとしました。助けが来た瞬間に緊張が解け意識を失うことがあります。今回も一人を下に残したことになり、もし本当に意識を無くしてしまったら対処が遅れていたのでは。計画の段階でもっと考えるべきだったと反省しています。
我々は救助者として、相手に対し余裕を持って接しなければなりません。我々の行動が相手を不安がらせてはいけないのです。今回の私の行動が二人にどう写ったかわかりませんが、自分としては不十分であったと感じています。反省ばかりで非常に恥ずかしいのですが、私にとっては大きな経験になりました。