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自動操縦装置を使用しての捜索も二〇メートル近くの強風と大きな波のため安定しない。手動で補正しながら捜索を続ける。

周囲は暗黒の世界で何も見えない。船体、漂流者はどこだ。その時通信士から「何かの影をとらえた」との報告があった。一時の方向距離約一カイリ」そちらの方向に向ける。

焦って機体姿勢を大きく変更するのはターゲットを見失うおそれがあるので、慎重に目標に接近させていく。

赤外線監視装置の画面上で「二人が手を振っているのが見える」との報告が通信士からあった。機内ががぜん活気づく。サーチライトを点灯、暗黒の海面にひときわ明るい部分が現れる。

パイロット、通信士そして、サーチライトを操る整備士との連携プレーが続く。海面の明るい部分がゆっくりと左右に動く。「そこだ。そこそこ!!」オレンジ色のブイが、はっきりとサーチライトに浮き上がって見えた。その両側に二人が、大きく手を振っている。

 

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赤外線捜索監視装置のモニター画面に映し出された「浮き」につかまって手をふっている二人

 

「やったー」。「ドアオープンいつでもよし。降下準備よければ、誘導開始せよ。」と指示する。「目標確認、前方一〇〇メートル」ホイストマンから返事が来る。いつも通りだ。日ごろの訓練のとおり。しかし、ホバリングが安定しない。操縦桿の動きが大きくなる。ヘリの高度を吊り上げ時の二〇メートルまで降下させた。海面には相当大きな波が見える。ホイストマンからは、機を右へ左へと誘導する声が飛ぶ。

目印の赤いライトを付けた特殊救難隊員がホイストケーブルで真っ暗な海面へ降下していった。

ホバリングが安定しないうえに、漂流者が波に結構なスピードで流されていくため、もう少しのところで手が届くというところに行きながら離れてゆく。やむなく少し離れたところに着水した特殊救難隊員がホイストケーブルを引っ張りながら、波の中を必死に漂流者の元へ泳いでいるのが見えた。

水平線が見えないため、サーチライトの光を受けた海面の直径約一〇メートルの明かりの中に見える波の様子を頼りに、平衡感覚を保ち慎重に機体を操る。

「漂流者一人確保」ホイストマンからのリポートが入る。「あと五メートル、三、二、一メートル、その位置ホールド」。ホバリングが安定しないため、吊り上げ中のホイストケーブルが前後左右に大きく揺れる。

漁船員が上がってきた。

特殊救難隊員が降下してから救助まで、通常の倍以上の時間を要して、一人目を機内に揚収した。

二人目の救助にかかるころ、サーブから照明弾が投下され始め、水平線を目視で確認出来るようになって幾分ホバリングが安定してきた。一人目同様に慎重な作業が続き、二人目を無事吊り上げ救助した。二人とも意識ははっきりしているが、一人が疲労しており寒さを訴えていた。早急に医療施設への搬送が必要と思われ、羽田へ向かうより三十分は早く着ける浜松へ向かうこととし針路を浜松へ変更した。

同日午前三時四十分ヘリは航空自衛隊浜松基地に着陸した。二人を救急車に引き渡し、我々の長くて短いミッションは完了した。

 

救助者小倉特殊救難隊員のコメント

 

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第三管区海上保安本部 羽田特殊救難基地隊員

小倉章史(おぐらしょうじ)

 

八号幸栄丸海難救助について

海難の第一報が入ったのは、平成十一年十月十九日の二十三時四十分ごろでした。雨が降っており、情報によれば現場の天候も雨、しかも二〇m/s近くの風が吹いているとのことで、まさに最悪の状態でした。

最新の情報を得るために、基地から直接八号幸栄丸に連絡を取りました。

 

 

 

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