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磯崎 偶然そうなりましたが、特殊救難隊員がたまたま私を先に捕そくしただけです。あの時化の中で命がけの救出活動だったと思います。ヘリコプター、航空機、下田海上保安部等の関係者の皆さんに心から感謝しています。

本誌 ヘリの機内での様子は?

磯崎 大山はウエットスーツを着ていたので体温も高く、元気なものでしたが、私は寒さでぐったりとなり隊員に何かを着せて貰いました。

 

まとめ

本誌 大変な体験をされた訳ですが、そのような事態に遭遇したときに大切なことをまとめるとどうなりますか。

磯崎 何といっても「落ち着いて冷静に行動すること」でしょう。時間がある場合とない場合では異なりますが、どのような場合も体温の保持が決め手になりますので、日ごろから万一に備えて心の準備をしておきますと、落ち着いてそのときの状況に応じた対応が出来ると思いました。

本誌 貴重な体験談といいお話を今後の海難事故対策に生かしていきたいと思います。

 

救助者小山田飛行士のコメント

 

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第三管区海上保安本部 羽田航空基地飛行士

小山田英俊(おやまだひでとし)

 

暗夜の海上からの救出

平成十一年十月十九日、午後五時過ぎ、石廊崎南西の海上で漁船が救助を求めているとの第一報が入った。現場は遠い、付近海域の風は北北東二〇メートル、雨も強く降り天候も悪いようだ。相当困難な救助になりそうだった。

最新鋭の機器を装備したターボプロップ飛行機サーブ340を先行させて当該漁船を捜索させ、その後をヘリコプターが追従し救助するという救助計画が策定され、私はそのヘリに機長として乗り込み、午前一時十分、特殊救難隊員二人を乗せ羽田空港を出発した。

次々と入る情報から現場の状況を判断し、特殊救難隊員と意見交換し救助方法を決定していく。鎌倉上空を通過、前方を見ると真っ暗だ。

時折、前面の風防ガラスに雨が激しく当たるバチバチという音が聞こえてくる。退船するとの通報を最後に当該漁船との連絡が途切れたとの情報がもたらされた。乗組員は救命胴衣は着けているだろうか、灯火や信号弾を持っているだろうか。

このヘリコプターには赤外線をとらえて映像にする高性能な監視システム(フリアー)を搭載している。先ず漂流中の二人を発見しなければならないが、はたして暗夜の海上で発見できるだろうか。

特殊救難隊員と漂流漁船員の救助方法を細かく打ち合せ、機内の準備は、着々と進行していった。「発見さえできれば救助できる」へリのクルーはそう確信しチームワーク力を高めていった。

先行するサーブから、現場海域到着の一報と現場の情報が入った。悪い気象海象条件であった。

副操縦士から「帰投時は向かい風が強いので現場での捜索可能時間は三十分」との報告。種々の条件が緊張感をより増加させ、操縦桿を持つ手に力が入っていくのがわかる。

その時、サーブから赤外線監視装置にて船体を発見したとの第一報が入った。付近に灯火は視認できず、乗組員の存在は確認できないようだが、きっと近くにいるはずだ。これで救助の可能性が高くなってきたと機内の重苦しかった空気が急に活気づいてくるのがわかった。

特殊救難隊員は何時でも降下できる準備を完了した。

「船体発見位置の南(風下)一カイリの位置から、高度三〇メートルで捜索を開始する。」とヘリのクルーに指示する。捜索の開始だ。副操縦士はその位置を航法装置に入力し、自動操縦装置の高度を三〇メートルにセットした。通信士は赤外線捜索監視装置の画面を注視した。

 

 

 

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