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工夫したことは、B5判の用紙を五枚つないだ横に長いものを経文折りにし、壁や乗組員のベッドの天井にも張れるようにし、いつも眺められるように(詳細を読まなくてもよい)と説明をしました。

そして海上保安協会や漁業協同組合の協力を得て、千〜二千部を作成し、漁船員全員はもちろん家族にも渡るようにしました。

サブタイトルも「安全は一人ひとりの心がけから」「船主も乗組員ももっと船を大事にしよう」「家族も一緒に海難防止を考えよう」と説き、「決められたルール・指導された事項はよく守ろう」と、辛口の言葉も入れておき、精神面を第一にとりあげました。

海難防止で重要なことは、肝心の乗組員一人ひとりにまで指導内容(分かりやすいもの)が伝わるようにすることです。できれば家族まで理解を得ることです。

その意味では、この方法はよかったと思っています。

以後、この「海難防止のしおり」はその時々の海難状況を勘案した内容とし、漫画を採用したりし、またB5判二一ぺージの小冊子型に改め、次第に内容も充実化させ第十号まで作成を続けました。

これらの資料では、「海難は、その人が泣き、そして子も孫も泣きます」とも訴え、乗組員だけでなく家族ぐるみの海難防止の必要性を叫び続けたのです。

もちろん地元漁業協同組合の理解と積極的な協力もありました。

結果、昭和四十九年の根室船籍の小型さけます漁船では、ついに最も悲惨な全損海難「ゼロ」の快挙の達成となりました。

当時の全損海難のほとんどが積みすぎ等による転覆でしたが、船のバランス、動揺周期等の「基本」を知り、何よりも「基本を守る」という考え方が、船主にも、乗組員にも、そして家族にも徹底して、「船を守る」「命を守る」につながり、「海難ゼロ」の悲願が達成されたと思います。

このたびの第五龍寶丸の海難をみるに、「船を守るための事項」、「命を守るための事項」は、昔と全く一緒であるのに、同じような海難が繰り返されたということにやるせない気持ちと非常に残念に思われました。

中央においては、関係機関による再発防止の検討が行われるとのことですが、それぞれの漁船、一人ひとりの漁船員が現場で守るべき、いわゆるソフト面の対応と、ITを中心に進歩著しい現代科学技術を漁船にも活用したハード面での検討が望まれるところです。

 

厳冬の操業時期に備えて

これからの北海道はもちろん日本周辺海域は、大時化の続く厳寒の海に変わります。

今回の第五龍寶丸のような海難の発生は根絶したいとともに、小型漁船の海難を防止するよう力を入れる必要があります。

海難の無い、豊漁で明るい漁業を目指すためには、船主も乗組員も家族も一体となって、「船の安全」「身の安全」に関する知識と技術をもう一度振り返り、「海を侮らない」「水を怖れる」の原点を見つめ直して、何よりも、家族を悲しみに追い込むことのないよう、常に考えながら節度のある操業に従事してほしいものです。

関係機関・団体もその効果的な指導・啓発の手法を考え、当事者に理解していただく努力をする必要があります。

海上で働くことは非常に厳しいことですが、ルールに従い原則を守れば、どんなに厳しくても海の生活は安全です。

 

 

 

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