私は、救命衣の着用については漁業者一人ひとりがリーダーの意識にならなければならないと考えています。
まず、船のリーダーである人が自ら着用するとともに乗組員全員に着用させるということは言うまでもありません。「親方が怖いから着る」とか、「組合がうるさいから着る」とかではなく、それぞれの乗組員が自分の命の大切さを痛感して、率先して着用する。そして着ていない人がいたら「お前も着ろ!」と注意して着せる。このようにお互いにチェックし合うことを徹底するしか解決方法はないのではないかと思います。
これからは「みんなが救命衣着用の指導者になれ」と粘り強く訴えていきたいと考えております。
次に大切なことは、海難を起こすと多くの人に迷惑をかけることになりますが、これは、大変よくないことだと再認識する必要があると思います。子供のころに、親から「人に迷惑をかけてはだめだよ」といわれたものですが、海難事故ほど他人(ひと)に迷惑をかけるものはないと思います。
海難が発生すると、仲間の漁船も操業を中止して徹夜で何日でも捜索になりますが、ほとんどがボランティアです。もちろん、その間の水揚げはありませんので、各漁業者の収入は減少しますし、漁協、加工業者などの関連企業、そして一般住民にも影響が及んできて、結局は地域社会全体に迷惑をかけることになるわけで、一社会人として海難事故は絶対に起こしてはいけないものなんだという自覚を強く持っていただきたいと思います。
私どものセンターは、昭和四十九年に設立以来、海難防止を叫んで参りました。特に五十六年から「オレンジベスト運動」を展開し、救命衣の着用を訴えてきました。
また、法的には救命衣備え付けの義務のない小型漁船に対しても着てもらうべく、もっと軽くて通気性がよく、しかも作業の邪魔にならないものができないかと模索して、平成五年・六年に当センターが中心となって開発したのが「小型漁船用常時着用型安全衣」です。
この「安全衣」は浮力の関係で国の型式承認はいただいておりませんが、その安全性は実証済であり、全道の漁業者に喜ばれており、また着用していたことで命が助かった事例も多く見られます。
救命衣着用の最後の決め手は、車のシートベルトと同様、法での義務化だと思いますが、当センターとしては、海上保安部や道はじめ各関係機関と連携し、今まで以上に漁業者に対し粘り強く海難防止を訴えて参りたいと決意を新たにしております。
なお、現在中央で救命胴衣の常時着用化の検討が始められていますが、私どもの地道な努力がようやく日の目をみる機会を与えられたとうれしく思っています。私も委員となっておりますので、その実現化に向けて全力を投入する所存です。関係の皆様の特段のご協力・ご支援をお願いいたします。
終わりにあたり、第五龍寳丸の乗組員一四人のご冥福を心からお祈りいたしますとともに、一四人の犠牲を無駄にしないよう、漁業者全員が救命衣の着用を徹底するよう重ねてお願いし、結びとさせていただきます。