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第五龍寶丸の海難に想う

 

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北海道漁船海難防止・水難救済センター

専務理事 佐久間猛(さくまたけし)

 

九月十一日、いつものように朝のテレビを見ながら出勤の準備をしていたところ、ニュースで「北海道浦河沖で漁船が沈没、乗組員一八人中四人は僚船に救助されたが、残りの一四人は行方不明」と報道されびっくりいたしました。

早速浦河漁業協同組合へ電話をいたしましたところ、「地元の沖合底引き網漁船第五龍寳丸が今朝六時二十分ころ浦河沖で揚網中突然船体が傾き転覆・沈没したということで現在捜索中であるが、一四人はまだ発見されていない」という連絡であり、改めて驚いた次第です。

私がこのセンターに勤務してから三年半ほどになりますが、初めて経験した大きな海難事故です。私は事故のことが心配でなりませんでしたので、すぐに浦河に向けて車を走らせました。

行方不明といっても、水温も高く、よい凪などの状況から、私が浦河に着くお昼ごろまでには何人かの乗組員が無事救出されたというニュースが流れてくるものと思い、ラジオに耳を傾けながら走りました。しかしながら、よい知らせはまったくありませんでした。

浦河の事故対策本部では、船主をはじめ関係機関や乗組員の家族の方々が無事救出されることを祈って集まっていました。

それから二十三日まで、海上保安部の航空機・巡視船や地元漁船などによる大がかりの捜索が徹夜で続けられましたが、現在まで一人も発見されておりません。

九月二十八日に浦河で一四人の合同葬儀が行われ、私も参列いたしましたが、誠に悲しい事故であり、海難防止を呼びかけてきた者の一人として本当に残念でなりません。

このたびの第五龍寶丸の事故について、私の所感の一端を述べてみたいと思います。

まずは何といっても、漁業者は命の大切さをよりいっそう真剣に考えていただきたいということです。

二十一世紀に世界的な食料危機が叫ばれていますが、第一次産業の漁業は国民の食生活を支えるという大きな役割を果たさなければならず、漁業は今まで以上に大切な産業になることは間違いありません。

そのような状況下、漁業者は今や自分だけの命ではないのです。家族はもちろん社会のため、国民のために必要な命であるということを認識していただきたいと思います。

そういう意味で、漁業者一人ひとりが安全操業についてもっともっと真剣に考える必要があるのではないかと思います。

今般の事故は、船体が傾いてから沈没するまで瞬時に起こったものであり、ゴムボートを下ろしたり、救命衣を着用する時間がなかったために、このような恐ろしい結果になったので、もし乗組員が作業用救命衣を着用していたらと思うと悔しくてなりません。

おそらく当時の水温(一九度)、穏やかな海象などを考えますと、着用していればほとんどの人が救助されていたと思います。

救命衣については、船主が乗組員に対して着せなければならない義務もありますが、それ以前に自らが着るという意識を持たなければなりません。

浜で聞かれるという、一人が救命衣を着ると回りの人が「根性なし」と言って、せっかくの着用意識を削(そ)ぐような空気を、各組合、船主、各漁業者が転換させなければいけません。陸上の工場、建築現場など、また海上における工事作業現場では作業員全員がヘルメット・安全衣などを確実に着用しているのを皆さんは見て、知っていることと想います。

 

 

 

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