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繰り返すな漁船海難

…命だけでも助けたい…

 

日本海難防止協会 企画部長 菅野瑞夫(かんのみずお)

 

はじめに

九月十一日早朝、北海道浦河沖合いで沖合底引き網漁船第五龍寶丸(一六〇総トン)が転覆し一四人もの乗組員が行方不明との報道を聞いて、当時の時化でもない状況から、私が最近最も力を注いでいる小型漁船での救命衣の常時着用化と重ねてみて、同船でも作業用救命衣を着用さえしていれば多分全員が僚船に救助されたものと非常に残念に思いました。

本誌での第五龍宝丸についての記述は他の専門家に譲るとして、本稿は、個々の海難では人命喪失数は少ないものの総合的には毎年多数の人命が失われている小型漁船について、「海難を減少させること」および「万一海難に陥っても命だけは助けること」の二つについて記述することとします。

なお本稿は、平成十一年度運輸省(安全基準課安全評価室)から当協会が委託を受けて実施した「漁船に関する総合的安全評価のための基礎調査」を参考にしていますが、かなりの部分で私の漁船の海難防止希求への思い入れあることをお許しください。

(注・小型漁船とは二〇総トン未満の漁船を念頭に置いています。)

 

小型漁船海難発生の防止

(1) 衝突、乗揚げの防止

漁船海難(一九八八〜一九九七年の一〇年間の分析)で最も多いのが衝突(一、八四六隻)で、次いで乗揚げ(一、〇九二隻)となっています。また、海難で死亡・行方不明者が多いのは、第一位の転覆の次ぎが衝突で、第三位が乗揚げになっています。衝突では三〇六人の多くの死亡・行方不明者を出しており、乗揚げでも七四人を数えています。

衝突・乗揚げおよびそれに伴う死亡・行方不明者は比較的小型漁船によるものが多くみられます。

小型漁船では他の大型の船舶に衝突された場合には、転覆や浸水しやすいため海に投げ出され、人命が失われやすいと言えます。

衝突・乗揚げの原因については見張り不十分、居眠りの他、船位不確認、操船不適切や自動操舵装置使用中の事故が多いなど、ほとんどが「運航上のミス」という共通性がみられます。

衝突が小型漁船に多いのは、これらの漁船の操業海域が航行船舶の多い沿岸海域であること、一人乗りまたは小人数のために漁労作業との関係で見張りが不十分になりがちであることが大きな要因になっていると思われます。(漁労中の衝突が比較的多い。)

乗揚げについては、比較的大きい沖合いに出漁する漁船での割合が高いのが特徴です。長時間の漁労活動で疲れた状態で沖合いの漁場から帰港中に、疲労による居眠り、緊張の弛緩を生じることによるものと思われます。

衝突・乗揚げの防止については漁船員の安全運航への意識や判断に係わる要素が大きいので、まずは漁船員の方々に見張りの厳守、居眠り防止、船位への注意などが強く求められます。

しかし一方、漁船は、曳網中は行動が制約されること、漁労活動中は見張りに専従することが困難であること、市場との関係で帰港中の漁獲物整理を余儀なくされること、一人乗り漁船が増えていることなど、他の船舶とは異なる運航上の特殊性を有しています。

従って、これら漁船、現場の実態を十分理解、認識した上で、どうしても漁船特有の人的対応がなかなか困難な部分については、的確にこれを補うハード面の検討・整備が重要と考えられます。

ARPAやGPSなどの航海用機器については、漁船員の現場実状に応じた警報付き、小型で使用しやすいもの、高度・多機能のものではなく漁船に必要な最小限の機能を有した低価格の器機の開発、普及が望まれるところです。

 

 

 

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