7. 研究成果
1] 風土に即した生物多様性の認識・継承・回復
東京湾の汽水域である、平潟湾の象徴はハゼであり、マハゼやダボハゼを中心にして、平潟湾には本来、十数種類のハゼが棲み分けして存在していた。ただ近年、塩分濃度等の変化により湾内の環境が変化することで、ダボハゼ等が急速に減少し、生物多様性が失われつつある。その事を、検証するためにも子ども達が楽しみながら実施したハゼつり大会(調査)は有意義であり、子供達自身もそれを通じて、故郷の生き物であるハゼに親しみ、生物多様性の重要性を理解した。また、水の日で実施した「一日だけの金沢水族館」においては、カニをテーマにして、河川の源流に生息するものや河口域の干潟、そして金沢湾内にいるものとをそれぞれ、子ども達自身が捕獲し、生きたまま展示することで、金沢の森と川と海の生き物の多様性について、学習した。
2] 山野川海(ナチュラルランドスケープ)の一体性の認識・継承・回復
かつて、瀬戸神社と枇杷島弁財天は金沢八景の海と山を繋ぐ人の交流と物流の玄関口として、金沢八景のランドスケープ上のメルクマールとなっていた。しかしながら、瀬戸神社と琵琶島弁財天が、国道16号の拡張に伴って分断されることによって、金沢八景の海と山はランドスケープとして分断されていった。この海と山の繋がりを行灯の光の筋によって、繋げることで住民に再認識してもらうことを試みたのが、瀬戸の秋月復活祭であった。
また、金沢水の日では、源流の朝比奈の森で取れた薪を「いかだ」に積んで川をくだり野島公園でその薪で金沢湾の海水を煮立てて塩をつくるというイベントを実施したが、これは、かつて、人々の生業を支えるために山野川海が一体的に果たしていた役割をイベントという形で、住民に再認識してもらい、現在の都市空間の中にその繋がりを回復してゆこうという試みであった。
3] コミュニティにおける世代間の文化継承と空間経営能力の再生
「瀬戸の秋月復活祭」では、事前の準備において、大学生が仲立ちする形で、土地の古老が小学生に昔ながらの行灯づくりを伝承するためのワークショップを何回も開催した。これは、イベントを通じて地域の固有の文化を世代間で継承してゆこうという試みであった。また称名寺芸術祭や瀬戸の秋月復活祭に見られるような神社や寺社の境内を舞台にプロデュースされたイベントは、戦前までは、地域共同体で管理していた、このような「半公共空間」を再び、地域社会全体で活用し、管理運営してゆくためのノウハウを蓄積する実験であった。
4] 地域文化経済の多様な交通交流機能の再生
平潟湾はぜ釣り大会は、地域の特産物としても、ハゼを見直し商品化してゆこうという狙いもこめられていた。これは、例えば「金沢八景釜飯」の試作販売という形で実を結びつつある。また、称名寺芸術祭は「歴史とアート」のフリーマーケットを、起爆剤にして地元商店街の活性化を図る催しであった。このように、今回の金沢八景大作戦では、来街者がその地域ならではの空間と産物に触れることで、豊かな時間を過ごし、地域の経済文化的活力を再生するという狙いがこめられていた。