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3. 事例対象地区の抱える課題

金沢八景地区は、江戸時代中期の平潟湾の内湾の新田開発に始まり、「海と緑」の地形の改変を伴う「産業開発」や「宅地開発」が断続的に行われ続けた地域である。特に昭和の高度経済成長以後、称名寺裏山の宅地開発や平潟湾の埋立、権現山のシーサイドライン延伸問題など開発と保全のあり方を巡って行政と住民が激しく対立し、それによって、地域社会も分断されてきた歴史を持っている。こうした歴史的な経緯から生まれたこの地区のランドスケープ上の課題を、3つのキーワードに沿って表現すると以下のようになる。

1] 歴史と緑

利便性や観光資源に恵まれていることで、史跡や緑地は常に侵される危険性にさらされている。「眺める」だけにとどまらない活用のあり方を検討することが、将来に渡って維持保全するための課題がある。

2] 道とコミュニティ

南北に走る幹線道路が、多様なコミュニティを分断しており、海と緑を結ぶ筈の東西の交通軸が弱い。古道を軸に市街地のアメニティ資源を再構成することと、新旧コミュニュティの複層的な交流を図ることが課題となっている。

3] 水際線と湊

埋立や水際線への高層住宅の建設が、「海」と「日常生活」との距離感の広がりに拍車をかけている。現代の風景の中にも継承されている旧海岸線や湊を「生業」のための資源としてどう再生するかが課題となる。

 

4. 課題解決のための視点

以上の課題を解決するため、今回の研究にあたって、以下の5つの視点を組み立てた。(図2-金沢八景曼陀羅 参照)

1] 「金沢八景」の歴史的景観・史跡の維持継承

海と緑の起伏に富んだ金沢八景の歴史的景観を面的に維持継承する。

2] 「江戸前の海」の生態系の維持継承

干潟から生まれる豊富な水産資源を活かし、潮干狩りやハゼ釣りといった「江戸前の海」の風物を維持継承する。

3] 自由貿易空間としての「六浦の湊」の再生

金沢八景の玄関口として駅前商店街を中心とした「人」、「もの・サービス」、「情報」が自在に循環する交易空間を創造する。

4] エコ・ミュージアムの創出

地元の子ども達が自分自身の生き方と街の将来を重ね合わせて考える地域総合学習の場としてのエコミュージアムを創出する。

5] エコ・ツーリズムの展開

来街者が地域住民との交流体験によって、地域の資源を学んで守る「エコ・ツーリズム」を展開する。

 

 

 

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