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4] 地元の建設業者によって工事が行われることにより、地元の経済振興に寄与した(○)。

5] 外房特有の岩礁域の一部が消失し、浅海での生態系の劣化に繋がった(●)。

6] 外房らしい景観が失われ、人工化が進むことによって多くの観光客を引きつける魅力が減少した(●)。

7] 護岸ののり面を緩くすることによって汀線へのアクセスを造ろうとしたが、実際は激しい波のうちあげと、それに伴う生物付着によって汀線へのアクセスは不可能になった(●)。

8] 緩傾斜護岸が深い場所まで突出したため、強い波浪作用を受けることから、将来の護岸被災・復旧に要する維持コストが増大した(●)。

新海岸法では、海岸の工事に当たって従来からの「保全」機能だけではなく、「利用」「環境」についても十分な配慮がなされるべきことを謳っている。この場合、部分的に主旨を満足することを含めれば、上述の1]、2]、3]は法の主旨に合致していると判断することも可能である。一方、環境保護を重視する立場の人々からは、法の目指すところをつまみ食いしたと言われる可能性も大きい。しかし環境保護を図る立場の弱点は、例えば、5]の意見に対し、その効果の定量的評価が難しいことである。

 

問題点の普遍的整理

千倉海岸と北の脇海岸で見られたと同様な事例は全国至る所で見られる1)。そこで問題点の普遍的整理を行ってみる。

一般に、海岸の区域設定は図-2のようにまとめられる。海岸線と平行に基準線を定めたとき、汀線までの距離をXA、護岸線までの距離をXB、護岸背後の官民境界までの距離をXCとする。このとき海浜幅はXA-XBで与えられる。一般の海岸工事においては官民境界Cの設定に強い制約があり、その線より海側で工事が行われる。

新海岸法のもとでは海岸の保全のみならず、環境や利用にも配慮すべきことが謳われている。しかし用地幅(XA-XC)が十分広くなく幅が限られている場合、単に親水性や汀線へのアクセスの改良をもって海岸の環境や利用、さらには景観への配慮が可能と考えることは誤りである。実際には用地幅が限られている場合には、それらの行為は自然環境を犠牲にすることにつながっていく。

このような海岸において旧来の直立護岸を緩傾斜護岸に改築するとする。その場合緩傾斜であるがゆえに、緩傾斜護岸ののり先は現況の護岸線より必ず沖側に出る。その位置をxfとする。この場合、直立護岸を緩傾斜化するという行為は、結果的に砂浜幅をXA-XBからXA-xfまで狭めることになる。すなわち護岸を緩勾配化するために貴重な砂浜をコンクリートで覆うことになる。また一般に汀線位置は短期的・長期的に変動しているから、XA-xf≦0という場合も出てくる。この場合、緩傾斜護岸ののり先が直接海へ突っ込むために、裏込め上砂の流出→ブロックの沈下という災害が起こりやすくなり、またブロック面が生物付着や濡れることによって滑り易くなって利用上問題が起こるだけではなく、なによりも大事なことには貴重な砂浜の消失を促進したことになる。

これらはXAとxfの相対的問題であるから、緩傾斜護岸が海浜に突き出た長さ分(xf-XB)だけ汀線を沖側に移動させればよい、と簡単に思われるかも知れない。これは養浜の考え方である。図-2において前出しされた緩傾斜護岸の前面に砂を投入して汀線を前進させるのである。この場合2つの新たな問題が起こる。

 

 

 

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