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これは付近の住民には喜ばれている。一連の工事は要するに埋め立てに等しいのであるが、旧海岸線から新海岸線へと海側に施設が突出することになるので、のり先水深が大きくなり、また波浪の作用も増大するので、コンクリート製のがっしりした構造物でなければ守ることができない。その結果写真-6のように、そして冒頭に示した写真-1の風景ができあがったのである。

 

徳島県北の脇海岸(第2の事例)

2000年11月10日には徳島県の北の脇海岸において現地踏査を行った。この海岸は図-1に示すように徳島県南部、那賀川河口の南側約4.5kmに位置し、南北両端を岩礁で区切られた延長約1.2kmの砂浜海岸である。海岸線の走行方向はほぼSSW〜NNE方向であり、南側の海域には燧崎および蒲生田岬、さらにはそれに続く島々があって、遮蔽されるため外洋波浪の直接的な作用を受けにくい海岸である。

写真-7は北の脇海岸の中央やや南側から北向きに海岸状況を撮影したものである。海岸線に沿って直立護岸が延びている。背後には松林があり、また護岸前面には幅が20m程度の砂浜が広がっている。しかし護岸前面の砂浜は満潮時の波の遡上範囲に含まれているため、護岸前面に植生帯は存在しない。また、護岸が高いために海岸護岸から直接海浜へと下ることはできないので、所々階段が取り付けられている状況が写真から見て取れる。北の脇海岸は両端を岬で区切られているため、汀線の変動はあるもののほぼ安定な海浜と考えられる。

写真-7の撮影位置から南側に移動すると、写真-8に示すように直立護岸が改築されるとともに海岸護岸の天端高と同じ高さを有する展望台(テラス)が新設され、その天端から写真-9に示すように緩傾斜護岸が造られていた。写真-10は北の脇海岸の南端部を望みつつこの展望台付き緩傾斜護岸の南側端部を撮影したものであるが、既存の海岸護岸の天端から展望台が大きく前出しされていることが分かる。また前方には同様な護岸が見える。写真-11は緩傾斜護岸の斜面部分である。斜面上の階段部分が汀線を横切って海中まで張り出し、この結果前浜は完全にコンクリートによって覆われた。護岸の天端高と同じ高さを有する展望台が前出しされた分、緩傾斜護岸ののり先が沖側にさらに突出することになった。

一連の工事は、用地が限られる中で展望台を造って景観に配慮しようとしたこと、また汀線へのアクセスの改良を目指したと思われる護岸の緩傾斜化によって海浜地の喪失を招いたと言える。このような自然海浜の人工海岸化は貴重な環境を保全していくという考え方と全く逆であり、海浜の環境に興味を持った人々には全く理解されない方法と考えられる。いわば環境保全の名目で海浜地のコンクリート化(人工化)を進めていることに他ならない。ただ、砂浜で靴を汚さずに汀線近くまで到達できてよい、また汀線へは出ずに海だけを眺めるのであれば展望台も役立つと考える人もいるかも知れない。

 

問題の深層をえぐる

千倉海岸で見られた一連の現象は、利点(○)、欠点(●)として次のように整理される。

1] 道路への越波は防止され、高波浪時でも安全な走行が可能になった(○)。

2] 道路と新護岸の間の空間が広がり、駐車場のスペースが生み出された(○)。

3] 整備された空間は人工的ではあるが、それなりに「整然とした」「良好な」景観を生み出した(○)。

 

 

 

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