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O 環境工学の抱える諸問題 ―砂浜海岸の人工護岸化をくい止めることは可能か―

宇多高明 (国土交通省土木研究所河川部長)

 

人工化された海岸の風景:千葉県千倉海岸(第1の事例)

写真-1は2000年11月に訪れた千葉県房総半島の先端部に近い千倉海岸で撮影した海岸状況である。海岸線には長大な斜面を持った護岸(緩傾斜護岸)がそそり立っている。緩傾斜護岸の先端は海の中に大きく突出し、先端の水深が大きいため太平洋からの入射波浪が大きく減衰することなしに護岸の斜面上へとはい上がっている。ここにはもともと直立護岸とその前面に磯があったが、それらの磯は護岸の下に埋められた。護岸は緩い勾配を持っていることから分かるように、汀線へ近づき易いようにという設計がなされていたと推定できる。しかし、写真に明らかなように緩傾斜護岸ののり先は常時波の作用を受けると同時に、そこは生物付着が著しく、ヌルヌルして滑るため近づくと危険である。したがって汀線へのアクセスは確保できず、所期の目的は達成されていない。また磯が埋められてしまったことは、浅海の生態系の劣化を招いたと考えられる。その定量的評価は難しいとしても、この写真のみから判断すればこの海岸保全工事は何のために行われたのか?という疑問が湧くに違いない。その場合、直ちにナンセンスと決めつけても問題の解決には繋がらないであろう。問題の所在をもう少し探ると、実は日本人の環境認識が様々であり、地域全体でよりよい環境を造ることよりも、局所的に問題を解決すればそれでよい、という目先の利益追求型であってトータル的かつ長期的視点が欠如していることに問題が帰するように思われる。

 

どうしてこのような風景になったのか

写真-1の海岸工事が行われた場所では、写真-2に示すように外房の主要幹線道路である国道410号線が海岸線に沿って走っている。道路は往復2車線であり、それほど広い道ではない。道路の海側には写真に示すように直立護岸があり、護岸の沖側には岩礁が広がっている。これらの岩礁は浅海での魚介類の生息場を提供するだけではなく、固くかつ緩やかな勾配を持った海底面が続くことから、高波浪時の波浪を減衰させる天然の防波堤効果も有していた。

しかしながら、道路は護岸のすぐ内側を走っていることから、潮位が高くかつ波高が高い時には越波が激しく、交通止めをしなければならない事態も起こる。このため道路管理者からは高波浪時の越波の防止策を取ってほしいという話が出た。もともと写真-2のような状況が発生したのは、道路がそのような場所に造られたことが本質的問題ではあるが、現にそこに存在し、供用されている以上、この点については触れてもあまり意味がない。

対応策は種々あるが、ここでは写真-3に示すように直立護岸の前が埋め立てられ、その海側を守るための護岸が造られた。写真-3は、写真-2において前方に見える白い直立護岸から逆方向に海岸状況を望んだものである。写真の右端には直立護岸が一部見える。これによって幅20m程度陸地が広がった。写真-4は、写真-3に見える護岸の天端から再び写真-2と同じ方向を望んだものである。コンクリート製のしっかりした護岸であることが分かる。

一連の工事によって旧護岸を越える越波は大きく減少し、交通止めの必要がなくなった。それだけではなく、新たに広がった用地は駐車場となり、写真-5に示すように多くの自動車が駐車可能なスペースが広がった。

 

 

 

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