芝川と潤井川は富士山西側の湧水を源流としている。この2つの河川の流量141万トン/日は富士山西側斜面の湧水の総量をあらわす。141万トン/日に面積と降水量の比3.79を掛けて、富士山周辺の全湧水量を534万トン/日と見積られている。
(1) 猪之頭
猪之頭は標高700m前後に位置する集落で、芝川の水源地帯となっている。東側の富士山麓斜面と西側の天子山地斜面の間に分布し、富士山系と天子山系の地下水が流入し、合流する地域である。
静岡県の資料によると猪之頭地域の地下水湧出量は1955年当時518,400m3であったものが、1991年の増水時の湧出量にしても11月の測定結果では215,481m3と、1995年当時の半分以下となっている。1986年から1991年の静岡県の調査では最大は1991年11月の215,481m3、最低は1987年7月の値での45,273m3で最低量が極端に少ない。湧出量は6月頃最低値、11月頃最大値を示す。最大の湧水地点は静岡県富士養鱒場の北側の標高715mに露出する溶岩の崖の末端で、傾斜の変換部で湧出している。
猪之頭の北の地点でおこなわれたボーリングによると地表下110m以深に古富士の泥流相当層がみられる。ボーリング孔内の約1万年前の新富士火山旧期溶岩層の猪之頭溶岩を流れる地下水は、微流速計で調べた結果、いくつかの層に分かれ、クリンカーや溶岩の層の間の礫層を流れる。溶岩層は南にいくに従って薄くなる。猪之頭付近は猪之頭溶岩流の末端にあたり、地下水が溶岩末端から湧出している。