3] 計画実施の長期化
大規模な計画のため、その完成に何十年もかかり、その間の地域開発の停滞や方向性の未確定によって、地域住民の生活が安定せず、人心が乱れる。
4] 通常洪水対策の遅延
数十年たっても完成しない計画のため、その間の通常洪水に対する対策が後回しになり、実質的に被害をこうむる確率が高くなる。
5] 自然・文化の多様性の破壊
実際にダムや河道が作られた場合、大規模かつ画一的な工法のため、自然の物質循環や生態環境が遮断され、それに基づく地域文化が破壊される。
3. 自然と共生する循環型技術の提案
近代的河川技術や河道主義治水の限界を乗越えるために、以下のように伝統的技術をハイテク技術との組み合わせで再評価し、自然と共生する河川技術を提案する。また、治水・利水のあり方にも再考が必要であり、氾濫受容型治水と利水秩序体系の見なおしを提案する。
(1) 自然素材とハイテク技術による伝統的技術の再評価
かつての伝統的技術は自然素材を主体としており、人力に依存することが多く、施工や維持管理が難しかったが、現代では小規模なハイテク土工機械力の助けを借りれば、施工・維持管理とも容易になっている。すなわち、地域の自然素材を生かすことによって、新たに地域循環型の技術を再構築できる段階に来ている。例えば、間伐材を主体とした粗朶による工法は、山林の維持管理にも役立つ循環型技術の典型である。今後は、伝統的技術とハイテク技術を組み合わせ、地域資源を生かした新たな循環型技術を積極的に構築する必要がある。
(2) ダムにおける土砂バイパスの提案
ダムは、人類に多くの利益をもたらし、20世紀文明の象徴の一つといえるが、土砂や落葉などをすべて溜め込み、生態系を破壊することはもとより、上流側の堆砂や河床上昇、そして下流側の河床低下や海岸侵食などさまざまな弊害をもたらした。アメリカではこうしたダムの撤去が現在すでに始まっている。可能であれば、日本でもダムの撤去を視野に入れる段階に来ていると考えるが、すべてのダムを撤去することは現状では現実的ではない。そこで、生物の上下移動の遮断を改善することはできないが、上砂などを下流に排出し、可能な限り川の自然性を回復する上砂バイパスを提案する。
土砂バイパスは、既設のダムに取りつけることが可能であり、堆砂に悩むダムを再生することができるとともに、堆砂に関するダムの耐用年数を一桁以上長くすることができる。なお、上砂バイパスのトンネル壁面は磨耗が激しいが、その対策は非洪水期間に補修することで対応可能である。土砂バイパスの事例としては、現在日本では、関西電力の旭ダム(十津川支川旭川)にのみ存在しているが、1998年から供用を開始しており、良好な成績を収めている(図5参照)。無論、日本ですでに2700基以上のダムが存在しており、そのすべてのダムに土砂バイパスを適用することはできないかもしれないが、相当数のダムに適用することができると考えている。