エドマの融解
最終氷期が1.3万年前に終わり、急激な温暖化が始まった。しかし、地表面での温度上昇が地中に伝播するのに時間的な遅延があり、すぐには融解しない。またシベリア地域早い速度で植生の回復があって、9000年前にはほぼ現在と同じようなタイガがシベリアを覆ってしまった。このため、永久凍土の温度上昇は植生被覆で遮られた。こうした状態を永久凍土の熱的不安定化と呼ぶ。ところが、森林火災などによって植生が破壊されると、永久凍土の地表面熱収支バランスが崩れ、一気に凍土が深くまで融解しはじめる。現在のシベリアタイガと永久凍土とは微妙なバランスから成り立っている。タイガの分布の中心地域であるヤクーツクでは、年平均気温は-10℃で年降水量は236mmである。これだけの降水量では、砂漠かあるいはステップしか成立しえない。ところが実際には世界最大の森林であるタイガが成立したのは、永久凍土の存在による。永久凍土では夏の間に100cm程度融解する。こうした夏季融解層を活動層と呼ぶ。このわずかな夏季融解層に貯留された土壌水分を、タイガが有効に活用している。もし地下の永久凍土が存在しなければ、わずかな降水や融解水は、土中に下方浸透してしまい、表層部の土壌は乾燥する。一方、永久凍土から見れば、タイガが夏季の直達日射を遮り凍土の融解を防いでいる。タイガの成立は永久凍土に依存し、後氷期の温暖化のもとで、永久凍土が不安定化しながら残存しているのは、タイガのお陰である。こうした永久凍土とタイガとの関係は、生態学的な共生関係ともいえる。