まず、寒冷な時期に安定した地表面で、氷楔が形成される。現在の極地カナダでの観測結果によれば、氷楔の1年あたりの横方向への成長量は6mm程度である。エドマ氷の薄片による観察では、過去の氷楔の成長量は10-12mm程度であった。より寒冷な環境であれば、凍土の収縮量も大きくなる。もしこうした寒冷な時期が1000年程度継続すると、氷楔は10mの幅までに達する。次に気候が不安定化し、温暖でかつ降水量が増加すると、主な河川の流量が増加する。その結果、下流域では活発な堆積が起こる。これが図中の2]の堆積期である。既に図-3に示したように、エドマ層は主な河川の下流あるいは海岸線沿いに分布している。
その後再び寒冷な時期が再来して、安定した地表面に氷楔が形成される。こうした寒冷―温暖の繰り返しが氷楔の形成―地表面の堆積を引き起こした。結果として、エドマは上に向かって厚みが増すことになり、やがて30-50mmの厚さのエドマ層が形成されることになる。その時期は4万年前から2.5万年前にあたっている。
では果たしてこうした環境がかって存在したかという疑惑がわく。そこで、グリーンランドの氷床コアーを分析した結果と対比しながら、エドマ層の形成時期を推定してみる。図-9は約4万年前から1万年前までの、北極域の温度変動を酸素同位体濃度から復元した結果を示す。縦軸はさきに説明した酸素同位体濃度(δ18O)の値である。上に向かうほど温暖で、下方向が寒冷化を意味する。この変動曲線から、大きく3区分できる。4万年前から2.3万年前は数千年周期で寒暖が繰り返している。2.3万年前から1.5万年前までは変動幅が小さく、寒冷が安定した時期である。1.3万年前から急激に温度上昇が起こり、1.15万年前に一時的に寒冷化があったものの、後氷期の温暖化が開始した。2万年前後が最も寒冷な時期とされている。シベリアではサルタン氷期と呼ばれている。その前の時期、すなわち不安定な時期は、カルギンスキー亜間氷期であり、エドマ層の形成期に一致する。そこで、カルギンスキーの亜間氷期の寒冷時期が氷楔の形成時期であり、また温暖期が新たな地表面への堆積期となる。このカルギンスキー亜間氷期は、北極域全域で気候の不安定な時期とされ、これをダンスガード―オシュガーサイクルと呼ばれている。なぜこうした周期的な寒暖の変動が発生したかについてまだ明確な説明はなされていない。