図-6はモスクワ大学の研究グループが、現在形成されつつある氷楔の酸素同位体濃度とその場所の冬の気温を測定した結果である。縦軸は酸素同位対比(δ18O)で(氷楔中の18O濃度-標準海氷の18O濃度)/標準海水中の18O濃度)で単位は1000分の1パーミル‰で計算される。横軸は各地点の降雪期の平均温度である。直接関係が成り立っていることが分かる。従ってエドマ氷でも酸素同位体比が、過去の温度記録として使える。
そこで、エドマ層の氷について2カ所での酸素同位体比の濃度分布を示す。メタンガスの濃度分布の場合と同じように、離れた2カ所での分布線は類似している。下層から上部に向かって酸素同位体比が大きくなっていて、これを図-6の直線関係から推定すると温度上昇は6-8℃にあたる。以上のように読みとられた古環境復元では、メタンガス濃度変動から夏季温度と土壌水分条件が、酸素同位体比変動から、冬季の温度変動が復元出来た。(図-7)。
エドマ層の形成時期については、図-5の縦軸に炭素同位体による年代測定結果が示されている。炭素不安定同位体14Cは、半減期が5700年である。そこで、堆積物中に僅かに含まれている14Cの存在量を測定することで、堆積の時期が決定できる。いずれの場合にも、下層では4万年前を超えている。上部でも2.8万年前が得られている。またレナ河デルタでは、エドマ層内部にマンモスの歯が含まれており、これを用いた年代測定結果からも3.5万年前に堆積していたことが示された。エドマ層の堆積がいつから始まったかについては、炭素同位体による年代測定が6万年前までしかさかのぼれないことから、今のところ明確に決定出来ない。エドマ層の堆積が終了した時期は、地域によって多少のずれがある。レナ河デルタや北極海沿岸地域では、2.8万年前と推定されている。しかし、コリマ河デルタでは2万年前まで堆積したと推定されている。
エドマ層が、氷楔によって形成されたとしたが、写真-3に示したように現在の気候環境では、楔の先端が地中に貫入できる深さは精々数mである。しかし、エドマ層の厚さは30-50mあるので、単純に氷襖の形成だけではエドマ層は形成されない。そこで考えられたのが、氷楔の形成と地表面に新たな堆積が交互に起こるという考え方(同時発生的氷楔)である。その形成過程を模式図(図-8)に示す。