先のエドマの氷は、この氷楔とまったく同じ構造であった。では、まずこの氷楔はどのようにして形成されるのだろうか。氷楔の形成過程を模式図で示す。(図-4)。冬に凍土表面の温度が低下すると、凍土は低温になるほど収縮する。やがて、凍士表面のどこかに収縮割れ目が発生する。割れ目の幅は6mmで、割れ目の間隔は約20mである。これがツンドラ構造土のサイズを決めている。冬が終わると、地表の積雪が融け1まだ地中に残っていた割れ目に融解水が浸透する。直ぐに凍結して細い楔型の氷となる。翌年の冬、また割れ目が氷楔の場所に出来る。凍土、凍土と氷楔の結合部、氷楔のうちで、氷楔の引っぱり強度がいちばん小さいからである。これを何10年、何100年と繰り返すうちに、氷楔はしだいに太っていく。氷楔がむりやりに凍土に割り込んでくるので、隣接した凍土はめくれあがってくる。その結果、地表に盛り上がりができて、畔のようになる。つまり、ツンドラ構造土は、永久凍土に氷襖が形成されて出来上がってくる。
さて、エドマ氷には過去にそれが集積した時の古環境を示す様々な記録が残されている。氷楔には気泡を多数含むので、その空気の化学組成を分析してみた。
その一例を図-5に示す。ここではメタンガスの濃度の分布が示されている。リャホフスキー島とレナ河のデルタ地域は相互に600kmも隔たっているが、濃度分布の傾向はよく似ている。現在の大気中のメタンガス濃度は1.8ppmである。この2つの濃度分布線の類似は、エドマ氷がこの2カ所では類似した環境下で形成したことを示唆している。表面から10mの深さまではメタンガス濃度は、きわめて高い値を示す。10m以深からは、急激にその値は低下する。30m深さからは再び増加する傾向が見られる。なお氷河の氷には、このような高濃度のメタンガスは存在していない。エドマの氷が永久凍土に貫入する氷楔によるとする。冬季に凍土表層部の収縮割れ目とそこへの融解水の流入が、形成過程であった。夏季には融解層では水分飽和なり、凹みに水が貯まってちょうど水田のようになる。そこでは嫌気的な環境で泥炭が分解してメタンガスが発生する。さらに秋季には表層から凍結が進行するが、下層ではまだ温度が高いのでメタンガスが発生しつづける。発生メタンガスは上の凍土層に阻まれ、大気へ放出されずに凍土層に封じ込められる。再び夏季となり、凍土が融解すると、閉じこめられていたメタンガスも大気に逃げるが、一部は融解水とともに割れ目に流れ込み、そこで凍結する。
このように、成長する氷楔のなかにメタンガスが貯留された。メタンガスの濃度が高い場合には、夏季温度が高く、また地表面付近は水分が多い環境であった。逆に濃度が低い場合には、夏季温度が低く乾燥した条件を示す。