日本財団 図書館


しかし、その移動距離は、世界地図の規模で見ると無視できる。ところで、多数の石油鉱床が存在する地域を油田という。油田は、必ず一連の堆積作用の産物が分布する堆積盆中に位置する。このことは、石油鉱床を構成する流体物質が、石油鉱床を胚胎する堆積盆中で生物遺骸に富む地層から空隙に富む地層へ移動したことを意味している。そこで、図12に世界の巨大油田が存在する位置を示しておく。

石炭とは、枯死して地中に埋没した植物が、還元環境下で炭化(単純には、比が上昇)した結果の産物である。地球の歴史には、この石炭が大量に産出することで特徴づけられる時代があり、それを石炭紀と呼んでいる。もちろん、この時代以外にも多くの石炭鉱床が生成している。いずれの時代の石炭鉱床も、その原料となる植物は、海水と陸水とが混じり合うような環境に生育していたことが、母岩となる堆積岩の解析から明らかになっている。図13は、過去にこのような環境が存在したことを示す世界の炭田の分布図である。

前述の通り、初期大気の主成分は窒素と二酸化炭素である。このため、初期の生物は嫌気性であった。ところが、反応(5)により、二酸化炭素と水を原料に生物体が生成されると、酸素が発生する。この結果、現在の大気と同じように、流体圏に遊離酸素が存在するようになった。この遊離酸素の量は、その後、30億年前から20億年前にかけて徐々に増加した。この過程の記録の1つとして、世界的鉄鉱床の生成が挙げられる。岩石が風化されると、その構成鉱物が分解して一部の元素が水へ溶出する。通常、造岩鉱物中の鉄は2価である。2価の鉄の溶解度はかなり高いので、風化の結果溶出した鉄は海へ運ばれ、海水中の溶存成分となる。一方、3価の鉄の溶解度は低い。そこで、酸素分圧の高いところでは、水中の溶存酸素量も多いので、例えば、

157-1.gif

という反応により、鉄が還元されて酸化鉄(磁鉄鉱Fe3O4あるいは赤鉄鉱Fe2O3)が沈澱する。反応(6)と(7)における鉄イオンと酸素の係数を比較すれば明らかなように、反応(6)は反応(7)より酸素分圧の低い条件で起きる。先カンブリア時代に生成した世界の鉄鉱層は大きく、アルゴマ(Algoma)型とシュペリオル(Superior)型に分けられる(図14)。前者は、主な鉱石鉱物が磁鉄鉱で、35〜30億年前の生成である。これに対し、後者は、主な鉱石鉱物が赤鉄鉱で、25〜20億年前に生成した。この違いを生じた原因の1つとして、この間に地球大気の酸素分圧が上昇したことが考えられる。

先カンブリア時代に反応(6)あるいは反応(7)により生成した世界の鉄鉱床は、磁鉄鉱あるいは赤鉄鉱に富む縞と石英に富む縞が交互にミリメートルのオーダーで繰り返しているため、縞状鉄鉱層(BIF: Banded Iron Formation)と呼ばれる。鉄鉱層の鉄の供給源について、アルゴマ型鉄鉱層では、上述した岩石の風化ではなく、海底の熱水活動によるというモデルが提唱されている。また、細かい縞の繰り返しは季節変動を反映しているというモデルも提唱されている。このモデルでは、海中微生物の活動が夏冬という季節で変動するので、これが鉄の沈殿と石英の沈殿の繰り返しの原因であると考える。

30億年前から20億年前にかけて大気中の酸素量が増加した別の証拠は、ウラン鉱床にも記録されている(例えば、Robertson et al., 1978)。世界のウラン鉱床は、主に30〜22億年前、20〜15億年前、6億年前〜現在という3時期に生成した(図15)。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION