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7. 沿海域の資源

表1に見られる1つの特徴として、海陸境界あるいは海山周辺の沿海域に、その分布面積に比して、多くの丸印ついていることがある。これは地球史を通じて、この地域が最も生物活動が盛んであったことによる。石油、石炭、石灰岩等の有機的堆積鉱床は、生物活動がその生成に関係している。また、これら以外の鉱床も生物活動に関係する地球環境の変化に誘引されて、生成した。そこで、生物の発生と地球環境の変化との関係に視点をおいて、以下に沿海域における鉱床の生成を概観する。

地球誕生のとき、地球は固体圏のみであったと考えられている。その後、地球内部からH2OやCO2やなどの揮発性成分が表面に移動し、流体圏が形成された。この初期流体圏の主要成分は、H2O、CO2、N2であった。これが、H2Oを主とする水圏と、CO2およびN2を主とする気圏に分かれた。流体圏が気圏と水圏とに分かれた当初、1]酸素はいずれの圏においても主要成分でなかった(すなわち、遊離酸素は存在しなかった)という事実と、2]気圏にCO2が多量に存在する以上、その分圧の関係でかなりの量の二酸化炭素が水圏に溶解していたという事実に注目しておく必要がある。初期流体圏に存在した二酸化炭素は、現在生物体や化石燃料を含めた固体圏の構成物になっている。このため、現在の流体圏では、二酸化炭素の量が少ない。この二酸化炭素の流体圏から固体圏への移動に生物活動が大きく関与した。生物体の化学組成を簡略化して、(C6H12O6)nで表すと、光合成は、

6nCO2+6nH2O → (C6H12O6)n+6nCO2 (5)

と書くことができる。光合成を示す上の反応(5)で、左辺から右辺への移行は吸熱反応である。すなわち、生物体の生成によってエネルギーが蓄えられ、そのときのエネルギー源が太陽光であることはよく知られた事実である。生物が死すと、その体は分解され最終的にはととになる。多くの生物体はこの過程で元の原料物質に戻る。しかし、過去に生成された生物体の一部は完全には分解されずに残存している。これが石炭であり、石油であり、天然ガスである。したがって、これらの物質に蓄えられているエネルギーは過去の太陽エネルギーである。このため、石炭・石油・天然ガスは化石燃料と呼ばれる。

現在石油あるいは天然ガスが存在する岩石を貯留岩、場所を貯留槽という。貯留岩となる岩石の大部分は海成の堆積岩である。中国の大慶油田では陸成層が貯留岩となっている。しかし、これは例外である。石油や天然ガスは、生物の遺骸からケロジェンを経て、生成したと考えられている。ケロジェンとは、泥質の堆積岩中に存在する有機溶媒に溶けない高分子有機化合物のことで、石油炭化水素の根源物質と見なされる。形態的には、不定形質(含藻類)、草本質、木部質、石炭質に分けられ、主として植物を起源とすると考えられる。ケロジェンは熟成の過程で移動性を増し、貯留槽へ集まる。このため、石油の起源となる生物の堆積場所は推定するしかないが、基本的に海域と考えられる。しかし、その位置の特定は難しい。このため、表1で、石油鉱床と天然ガス鉱床には疑問符がつけてある。

水中の堆積物が固結した堆積岩には、堆積当時の水が捕獲されて残っている。これを地層水という。典型的な石油鉱床では、トラップの上部に天然ガス、次に原油、下部に塩水が、それぞれほぼ水平な境界面をもって存在する。この塩水も過去の海水である。海成の堆積物で、多量の海草がともに沈積した場合、その堆積岩の地層水には、生物の分解で発生するメタンガスとともに、海草に含まれていた沃素が溶解している。このような過程で生成した天然ガスと沃素の鉱床が、千葉県の茂原地方に広く分布している。この地方の沃素生産量は、世界の2/3に達する。前述のように、現在石油や天然ガスの鉱床となっている場所は、その根源となる生物の遺骸が元々存在していた場所とは異なる。

 

 

 

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