5. 海水中の資源と資源としての海水
水圏、特に海における最も重要な資源は、食糧としての海産物である。これらの分布は一般に水深および水温に規制されている。このうち、水深に関しては、一般に深くなるほど資源量が減少する。これは、海棲生物のほとんどが、直接ないし間接に太陽エネルギーに依存して生息していることによる。しかし、深海底には、地殻から噴出する熱水のエネルギーに依存して生息しているシロウリガイ等の生物もいる。水温分布と魚群との関係は極めて複雑である。これに関しては、為石(1997)の興味深い総説があるので、詳細はそれに譲って、ここでは省略する。
海水から得られる鉱物資源として、水そのものと、そこに溶存している塩類がある。水そのものの利用は、基本的に冷却水に限られる。日本の工業地帯が沿岸部に立地している理由として、1]建設用資材の搬入が容易なことと、2]原材料を海外に依存していることに加えて、3]容易に工業用水が得られることが挙げられる。溶存塩類で最も利用されているのは、(鉱物名は岩塩)である。食卓塩として利用されるほか、各種化学工業の原料となる。他の溶存成分の利用としては、例えば、マグネシウムを、
Mg2++Ca(OH)2 → Mg(OH)22 ↓+Ca2+ (4)
なる反応によって沈殿させ、耐火材の原料としている。前者は蒸発岩鉱床から得られる岩塩と、後者は天然のマグネサイト(MgCO3)あるいはドロマイト(CaMg(CO3)2)と競合関係にある。
核燃料資源としてのウランを海水から回収しようという研究が一時期行われた。しかし、高品位のウラン鉱床が発見されるに及んで、このプロジェクトは実用化の目途が立つ前に終息した。
海水の化学組成は、河口の近くを除いて、極めて均質である。したがって、海水中には特定の元素や化合物が濃集した部分は存在せず、このため鉱床も存在しない。
6. 深海底の資源
表1でもっとも顕著な特徴の1つは、海域には堆積成鉱床しか存在しないことである。そのうちで、海底熱水成鉱床のみが、火成活動に関係している。海域の火山活動は3箇所に分けられる。第1が海嶺、第2が海山、第3が島弧である。このうち、海嶺と島弧で海底熱水成鉱床が発見されている(図7)。海嶺は、海洋地殻の湧き出し口で、マグマ活動が盛んである。このマグマ活動に生起されて、海水を起源とする熱水対流系が形成される。海底から海洋地殻へ入った水は、加熱される過程で周囲の岩石と反応して、金属成分を溶かし込む。これが海底から噴出して、海水と混合されると、溶解していた金属成分が硫化物や硫酸塩として析出する。このとき、硫化物が多いと黒煙のように見えるのでブラックスモーカー(black smoker)、硫酸塩が多いと白煙に見えるのでホワイトスモーカー(white smoker)という。この沈殿物から生成した堆積物が海底熱水成鉱床である。このようにして生成した海底熱水成鉱床が、そのまま海水に晒されていると、やがて金属鉱物は溶解消失する。しかし、海底熱水成鉱床が海底火山の噴火で噴出した火山灰により速やかに覆われて、海水から隔離されると、そのまま鉱床として残る。これがキースラーガー型鉱床と考えられる。図8は。海底熱水成鉱床が生成するためには、熱水からの析出物が速やかに堆積物に覆われなければ成らない理由を、鉱物の溶解度とエンタルピー(≒温度)との関係で示している。なお、海水熱水成鉱床の生成機構は、基本的にやかんの口から出る湯気と同じである。そこで、両者の対応関係を表3に示す。