日本財団 図書館


こうした背景に鑑みて、私たちは本研究テーマを通して、1)海洋動物の多様性をめぐる現代の知見をまとめ、多様性の維持や変化に関して提唱されている仮説について考察し、2)海洋動物の多様性の宝庫といわれているサンゴ礁生態系を取り上げ、その維持機構と変化を観察する一方、種の分化と系統に関する遺伝学的実験を行って、多様な種の存在理由について考察し、3)多様性と人の生活との関係について一般大衆にわかりやすく解説して、海洋動物と環境の保全保護への関心を高めたいと考えた。

 

II. 研究課題

1. 教材用原稿「生きている海―生物多様性と環境の保全」(仮題)の作成(大森)

米国の研究者Boyce Throne - Miller (Sea Web所属主任研究員)との共同作業で、海洋生物の多様性とその環境についての知識をまとめ、保全の問題点と国内外の動向および私たちの役割を、自然科学と社会科学の両面から総括した。各章の仮題は以下の通りである。

1. 大切な海洋生態系

2. 海の生物多様性をどの様に表すか

3. 沿岸域の生態系

4. 外洋域の生態系

5. 生物多様性への脅威

6. 生物多様性の保全

7. 生物多様性保全に向けての国内外の取組み

8. 私たちの役割―多様性は守れるか

 

2. 造礁サンゴの種の分化・融合に関する遺伝学的研究と網目状進化の検証(大森)

太平洋のサンゴ礁では、ミドリイシというサンゴの仲間が圧倒的多数を占め、サンゴ礁の中で最も重要な一群である。形態もさまざまで種類も多い。枝、テーブル、塊状、場所にもよるが目につくサンゴのほとんどがミドリイシ属と言っていい。沖縄のサンゴ礁では、5〜6月の満月近くの夜に、ミドリイシを中心とした多数の種類の造礁サンゴが一斉に産卵を行う。海底一面のサンゴから一斉に卵が生み出される光景は神秘的な一大スペクタクルである。

しかしそこには生物学的な矛盾が生じかねない。ひしめきあう多種類のサンゴが同時に産卵をすれば、近縁な種の間で雑種ができてしまわないだろうか。そして雑種化を繰り返せば、やがて複数の種がひとつに融合してしまわないだろうか。種が融合することによって新たな種が生じる、それも進化のひとつだと言える。もしかしたらサンゴたちは現在も、毎年の一斉産卵を通して進化を遂げているのかもしれない。

海洋という地理的隔離が明瞭でないような環境で、多くの種が同時産卵するという現象について考えると、これらがどの様に種分化し多様化してきたのかは興味深い問題である。最近Veron(1995)は、サンゴは過去の気候変動による海流や海水面の変化に伴い、交雑と種分化を繰り返しながら網目状に進化しているという仮設を提唱した。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION